多部未華子さんの「振り幅」

“振り幅”という言葉がある。
『これは経費で落ちません!』や『私の家政夫ナギサさん』といった人気ドラマの中で、仕事に対して真面目で誠実で、でも私生活では不器用でどこかコミカルな女性を演じ、幅広い世代から圧倒的な共感を得ている多部さん。でも、大好きだという舞台に出演するときは、カフカやサルトルやヴァージニア・ウルフなど、舞台慣れしていない人からすると、「難解なのかな?」と一瞬怯んでしまいそうな作品にも違和感なく溶け込み、“人間”らしい汗や体温を感じさせてくれる。遠く離れた時代の、まるで違う世界の物語なのに、彼女がいるだけでその歪んだ時空が繋がるような感覚があるのだ。

「振り幅がある」というのは俳優にとっては褒め言葉になると思うのだけれど、多部さんの振り幅は、今の日本の20代後半から30代前半の俳優の中では群を抜いている。

そんな彼女が、映画『空に住む』で、喪失感を抱えながら静かに静かに葛藤する28歳の女性・直実を演じた。両親の死後、叔父の所有するタワーマンションで暮らすことになった直実は、同じマンションに住むスター・時戸森則と出会い、恋に落ちていく。それが、実らぬ恋であると知りながら。

撮影/山本倫子
多部未華子(Mikako Tabe)/1989年生まれ。東京都出身。2002年に女優デビュー。05年公開の映画『HINOKIO』『青空のゆくえ』でブルーリボン新人賞を受賞。09年NHK連続テレビ小説『つばさ』のヒロインを務め、10年『農業少女』で読売演劇大賞女優賞・杉村春子賞、エランドール賞新人賞などを受賞。近年の主な出演作に、映画『あやしい彼女』(16年、水田伸生監督)『日日是好日』(18年、大森立嗣監督)『アイネクライネナハトムジーク』(19年、今泉力哉監督)、ドラマ『これは経費で落ちません!』(19年/NHK)『私の家政夫ナギサさん』(20年/TBS)、舞台『出口なし』(18年)『ドクター・ホフマンのサナトリウム〜カフカ第4の長編〜』(19年)、ミュージカル『TOP HAT』(18年)などがある。