武蔵小杉の「浸水した高級タワマン」を、売るに売れない30代男性の苦悩

購入時の価格で売るのはもうムリそう…
榊 淳司 プロフィール

「それでも、あの台風の前だったらさらに1割ほど上乗せして売れましたね」

「はい。私もそのつもりでいたのですが…」

男性が苦しそうに答える。

私はパソコンで不動産仲介業者が売り物件や成約事例を登録する、国土交通省所管の指定流通機構のサイトを見ながらこう説明した。

「ご存じかもしれませんが、あの台風以後約10か月ほど、このマンションの売買が成約した事例がまったく登録されていませんでした。この8月にやっと2件、9月にも1件が登録されました」

その最近の3件の成約事例を見ると、いずれも台風前より1割程度は下落している。男性はそのこともある程度ご存じなようだった。

「台風前は値上がり分でマンション売買の諸費用を賄おうと考えたのですが、今の相場では無理なのかどうかご相談したいと思いまして」

 

購入時の価格で売るのはムリ!

それとなく事情を聞いていくと、離婚協議中の奥さんはなかなか強硬で「台風前の値段で売ってちょうだい」と要求しているらしい。

「先生、何かいい方法はありませんか?」

男性は相変わらず、すがるような目で私に訴えかけてくる。

「はっきり申し上げますと、台風前の相場で売却することは、日本経済がインフレにでもならないかぎりほぼ不可能です。それどころか、8月以降のこの3件の成約事例の水準ですら、買い手が現れるかどうか分かりません」

私は現実を申し上げるしかなかった。