日本人唯一の「韓国野球専門家」として20年、栗山監督らとの出会いが私を変えた

「野球の国際化」のために仕事をする
室井 昌也 プロフィール

信頼を築いた後藤さんの姿を胸に

門倉さんは韓国3年目の2011年、サムスンに移籍。その年の途中にチームを離れた。その後、現在に至るまでこの9年間、KBOリーグに日本人選手はいない。各球団が求める外国人選手のレベルと、韓国での現役続行を望む日本人選手の力量が一致していないからだ。

しかし日韓でのコーチの往来は途切れることはなかった。韓国でコーチを務めた後、現在NPBでユニフォームを着ている指導者は14人を数える。その中で最も尊敬できる人物が、2018年にトゥサンで打撃コーチを務めた後藤孝志さん(現・巨人野手総合コーチ)だ。

選手らと話す後藤さん(写真:ストライク・ゾーン)

日本人コーチの中には日本と韓国の比較を繰り返すことで不便さや理不尽さを嘆き、うまく溶け込めないというケースがある。しかし後藤さんは「日本と海外は違って当たり前」という意識を持ち、常に相手のことを受け入れる姿勢を崩さなかった。現役引退後、ヤンキース傘下シングルAのタンパ・ヤンキース(現タンパ・ターポンズ)にコーチ留学した経験が生かされたという。

「海外に出ると自分がやっていることが間違っていないか気を遣うし、人に合わせなきゃいけないこともある。それは日本にいたら気が付かないことでした」

 

2度の渡米で理論に裏付けされた指導法を習得した後藤さんは、選手に的確なアドバイスを送るとともに選手を信じ続けた。その結果、トゥサンの選手たちは後藤さんを強く慕っていった。

後藤さんが韓国を離れ、巨人に復帰した後もある選手は後藤さんに自身のバッティング動画を送り、指導を依頼。オフには複数の選手が妻や彼女を連れて、後藤さんに会いに日本にやってくる。

異国の地では日本では起こりえないような面倒くさいことにぶち当たることもある。そんな時でも、笑顔を絶やさず、多くの人と信頼を築いていった後藤さんの姿を思い出すと、だいたいのことは平常心で乗り切れるようになった。