ドイツ統一から30年、9割が「生活に満足」の一方で今も残る「分断」

ドイツ人の変化、そして不安…
福田 直子 プロフィール

190万人の密告者たち

いざ共産圏が崩壊すると、社会主義国、ドイツ民主共和国(DDR)ではいかに情報統制が厳しいものであったかが判明した。

特に東独政府が国民に強いてきた監視体制が細かいものであったか、後に犠牲者たちに閲覧が許された文書や証言によって次第に明らかになっていった。

人口減少を恐れたDDR政府は「共和国から逃亡」を計画することだけでも反逆罪として投獄し、逃亡を試みる者を国境で容赦なく射殺した。東西を分断する壁付近で射殺されたのは少なくとも140人はいた。

また、40年間、国家保安省(シュタージ)が指揮をとり、市民の生活をこと細かにシュタージ本部へ密告したIM(非公然職員、社会主義党員ではなく、一般市民の非公式の密告者)たちは最盛期に190万人近くいたともいわれている。

IMたちは、隣人、同僚、同級生や恋人、夫や妻であったりした。政府を批判したり、国外へ逃亡計画を練っていることを密告されると投獄され、自由を奪われた。子供が親を密告することもあったという。 

 

2006年の映画「善き人のためのソナタ」は、東独時代の人間模様を描いたことで多くの人々の共感を呼んだ。

筋書きは、ある脚本家の住宅に盗聴器をしかけ、シュタージの係官が一部始終を記録し、盗聴する。同居する恋人の女優はシュタージに脅されて、西側の人間に東での状況を秘密ルートで伝えていた脚本家を密告している。しかし、シュタージが証拠物件を捜査するために自宅を訪れたときいたたまれなくなり、女優は衝動的にトラックの前へ飛び出て自殺。「自分は弱い人間ですまなかった」との言葉を最後に息をひきとるのである。シュタージの係官は人間としての良心の呵責に責められる。

脚本家と舞台女優の恋人、孤独なシュタージの係官の3人の東ドイツでの生活を描くこの作品は、アカデミー賞外国語映画賞を受賞した。

「人間の弱さ」につけこみ、個人情報を集めるシュタージの手法はどんなに人々の生活を破壊し、内面からかき乱したか、計り知れない。

東ドイツ崩壊後、シュタージが集めた反体制分子たちの文書は監視された本人や家族が閲覧できるようになったが、それを読んだために人間不信に陥るというケースも珍しくなかった。

東独人たちは、ドイツ統一によって国家による監視、社会主義の軛(くびき)から解放され、自由と民主主義を得たことで、物質的にも豊かになり、「幸せ」になったはずであった。

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