『男はつらいよ』全50作から厳選した名シーンの聖地ベスト10

寅さんと一緒に日本を探しに行こう!
岡村 直樹 プロフィール

“刃傷松の廊下”を笑いの種に

愛媛県大洲市(第19作『寅次郎と殿様』)

配役の妙を感じさせる点では、第19作『寅次郎と殿様』はシリーズ随一だろう。世間知らずの殿様に嵐寛壽郎、はしっこい執事に三木のり平を配した時点で、この映画は半ば成功といってよかろう。

寅さんが冒頭にみる夢のシーンにおいて、彼が嵐寛壽郎の十八番「鞍馬天狗」に扮しているところから、早くも嬉しい予感がした。そして、その期待は裏切られなかった。映画の完成度としてベスト5に上げられるとまでは言わないが、可笑しいこと無類の仕上がりだ。

舞台は、城下町の典型のごとき愛媛県大洲市。嵐寛壽郎扮する殿様は、大洲藩主の末裔・藤堂久宗公であり、三木のり平は藤堂家の執事だ。

肱川をのぞむ高台にそびえ立つ大洲城。朝に夕に市民が仰ぎ見る大洲市のシンボルだ

ひょんなことから殿様と知り合った寅さんは、「粗餐(そさん)を進ぜたい」という殿様の招きに応じて、お屋敷へ。亡くなった息子の嫁探しに一役買う約束をした寅さんを、下へもおかぬ歓待ぶり。ところが、世間知らずの殿様に代わって屋敷を切り盛りしている執事は寅さんを邪魔者扱いする。執事としては、ゆすりやたかりを追い払う常套手段を講じたまでなのだが、ついに殿様は堪忍袋の緒を切ってしまう。

 

やにはに床の間の小刀を抜き放ち、そこへ直れ、成敗すると激高。刀を振り上げる殿様を寅さんが羽交い締めにしている隙に、いざるようにして座敷から廊下へ逃れ出る執事。座敷では、殿様の「武士の情け、お放し下され」と嘆願する声。ほうほう、こりゃまるで、刃傷松の廊下の事件そこのけの展開だとほくそえんでいると、いざって逃げる吉良上野介、いや執事が「お出会えめされ」と叫び立てたあと、表情を一変させて「宮仕えは辛いね」とポツリ。

観客席は爆笑の渦と相成る次第。監督の仕組んだお芝居にだまされる快さが何とも楽しいのである。