『男はつらいよ』全50作から厳選した名シーンの聖地ベスト10

寅さんと一緒に日本を探しに行こう!
10月から、「Go To トラベル キャンペーン」の東京除外が解除され、4月の緊急事態宣言以来、国中を覆っていた旅行自粛ムードも少し変化してきたようだ。そこで、ぜひおすすめしたいのが、国民的映画シリーズの名場面の舞台を訪ねる聖地巡礼の旅。昨年、第一作の公開から50周年を迎え、50作目となる『お帰り 寅さん』が公開された『男はつらいよ』シリーズの名場面を紹介しながら、日本全国を旅して、おせっかいをやき、恋をしてきた「フーテンの寅」の足跡をたどってみよう。

昭和から平成、令和と続いた名作

令和元年の昨年は、映画『男はつらいよ』シリーズの第1作が公開(昭和44〈1969〉年)されてちょうど半世紀にあたり、年末には50作目の『お帰り 寅さん』が公開された。

その余波は年が改まってもつづき、テレビドラマ『贋作 男はつらいよ』が放映され、書店では寅さんコーナーが設けられているほどだ。

半世紀という歳月は長かった。世は昭和から平成をへて令和へと移る間に、主演の渥美清をはじめとする出演者の多くが亡くなり、舞台となった葛飾区柴又の帝釈天周辺の様相も変貌した。

柴又帝釈天参道のお団子屋さん

新作は、寅さんの甥っ子・満男(吉岡秀隆)を中心として物語が進む。満男は、堅実でつつましやかな家庭に育った分、自由気ままに生きる伯父さんへの強い憧れを抱いていた。

満男にとっての寅さんとは、いかなる存在であったか。映画館の背もたれに身を預け、新作を観賞しながら、昭和という時代の申し子のごとき車寅次郎の生きざまを何度となく反芻した。寺男の源ちゃんがスマートフォンを手にする新作の世界から、昭和へとタイムスリップする手がかりとして、シリーズの名場面を取り上げてみることにしよう。

 

妹との交情に涙、涙

東京・上野駅(第11作『寅次郎 忘れな草』)

駅には多くの人が集まっては散っていく。上野駅なら故郷のなまりを聞きにくる青年だっているだろう。公衆電話の前では、女が男に別れを言おうか言うまいか迷っている。駅は人生の縮図である。

『男はつらいよ』シリーズにおいて、京成柴又駅に次いで、映し出される回数が多いのは上野駅だろう。「もう二度と帰っちゃ来ねえよ」とタンカをきって故郷柴又を飛び出す寅さんにとって、旅の起点が上野駅なのだ。

「とらや」に寄宿していた米国のセールスマン(ハーブ・エデルマン)と別れを惜しんだのも上野駅だった(第24作『寅次郎 春の夢』)が、もっとも印象に残ったのは、第11作『寅次郎 忘れな草』の一場面である。上野駅の地下食堂でラーメンをすすりながら、妹のさくら(倍賞千恵子)と別れる場面。

「博と仲良くやるんだぞ。あっ、チビによぉ、あめ玉のひとつでも」と言って財布をあけると500円札が1枚っきり。

それと察したさくらは、兄の財布を奪うようにひったくり、自分の財布からお札を取り出し、一枚一枚しわを伸ばして兄の財布に入れる。他人の前で兄に恥をかかせてはならない。他の客に背を向け、隠すようにして財布にお札を入れてやるのだ。「お金、もう少し持ってくれば良かったね」と涙ぐむさくらに、不甲斐なさにうつむくばかりの寅さん。観ているこちらがせつなくなる場面だ。

昭和57(1982)年に500円硬貨が発行され、500円札にはとんとお目にかかれなくなった。上野駅舎もまた装いを変え、うらさびしい地下食堂は姿を消した。

昭和は遠くなりにけり。