日本三大都市の一つで、食が豊かな愛知県名古屋市と、その名古屋からほど近くにある焼きものの町、岐阜県多治見市。菓子研究家の長田佳子さんが自分のお菓子に合う器を探しに出かけてみたら……。信念を持って文化を発信する人々と出会い日々の暮らしを思索する旅となりました。
昔懐かしい風景をタイルで思い出す。
お腹も心も満ち足りたところで、次なる目的地の〈多治見市モザイクタイルミュージアム〉へ。ここは多治見市が、モザイクタイルで有名な笠原町と合併したときに計画され、タイル業界の財団が運営している。焼きものの産地である多治見ではタイルもたくさん作ってきたけれど、時代の変化とともに、家庭や公共施設の水回りでタイルが使われる場面が減ってきた。
そこでこのミュージアムではこれまでのタイルの文化と、今後の可能性を合わせて展示している。インパクトのある建物は、建築家・藤森照信さんのデザインで、タイルの原料を採る山をモデルにしているそう。粘土を削り出したためにできた絶壁を模した外観はなんともユーモラスで、館内では山の中に潜っているような感覚になれる。
20年ほどかけて集めてきたという、家庭のお風呂場や洗面台、床屋や銭湯などで使われていたタイルの展示は、昭和の郷愁に溢れていて見入ってしまう。2階では、現在も製造している20メーカーほどのタイルを展示販売。注文もできるし、1階にはワークショップなどが行われるコーナーもあるので、家族で訪れるのも楽しそう。
さて、旅も終盤。常々、旅の多い長田さんだけど、そのほとんどがイベント出店やワークショップといった仕事のための旅。仕事相手が現地をガイドしてくれることが多く、下調べをすることはあまりないそう。プライベートの旅となると、信頼できる友人のおすすめによって情報を収集するらしい。
「貪欲に情報を収集して動き回るタイプではないんですね。信頼している友人が勧めてくれたところに行って、あとはただのんびりと過ごすのが好きなんです」
今回も、そんな友人たちの推薦をメインに巡ってみたところ、身近なようで遠かった岐阜・愛知はなんと魅力的な場所だったことか。
「なにもないと思われていたところで新たな文化を作っている人たちがいて、そこから生まれる出会いがたくさんある。食も工芸もアートも、ものを作るという仕事は、真摯に向き合うことから始まるのだなと思いました。私も人生のうち、あと何回、納得する仕事ができるのかな」と長田さん。
そんな長田さんの作るお菓子が旅での出会いを経てどう進化していくのか、楽しみでたまらない。