なぜ開始2ヵ月で、三セク鉄道の「鉄印帳」が大人気となったのか

すべての鉄印を集めた人も続々登場
坂元 隆 プロフィール

自家用車が普及する一方で地域の過疎化が進む中、三セク鉄道を利用するのは、運転免許を持たない高校生や運転が大変な高齢者が中心だ。

地元自治体の支援が得られなかったり、天災に見舞われ大きな被害を被ったりして、廃線となるところもある。地元の足としての役割だけではとても経営はなりたたない、というのが大半の三セク鉄道各社の本音だろう。

三セク協の会長もつとめる三陸鉄道(岩手県)の中村一郎社長は、「日本全体の人口が減少している以上、観光という取り組みで補っていくしかない」と話す。

NHKの連ドラ「あまちゃん」でも有名になった三陸鉄道。日本最長の三セク鉄道だ(三陸鉄道提供)

そのような危機感に促されて鉄印帳は生まれた。中村社長が「画期的」と意気込むように、これまで主に情報交換や集団陳情準備の場であった三セク協の加盟各社が、足並みをそろえて全社共通のキャンペーンに取り組むのは初めてだ。

 

鉄印帳を最初に提案したくま川鉄道(熊本県)の永江友二社長は、妻が御朱印帳を持って神社巡りをしているのを見て、「同じことを三セク協でもやれば、三セク鉄道全部を回ったことの証明書になるのでは」と鉄印帳のアイデアを思い付いたという。

ただ、皮肉なことに、くま川鉄道は、今年7月の豪雨で鉄橋が流されたり、車両が浸水したりして甚大な被害を被った。現在も全線運休が続いており、完全復旧にはあと3年程度かかるかもしれないという。

このため、くま川鉄道は、受付窓口を開けないので、鉄印帳をネットで販売している。それでも、永江社長はあきらめない。「年間の赤字全部を鉄印で救えるとは思えないが、鉄印帳が話題になって一般の客が九州に来てくれるだけでもいい。赤字を少しでも減らして、くま川鉄道を存続させたい」

くま川鉄道は豪雨で甚大な被害をこうむった(くま川鉄道提供)

地域振興のてこにしよう

鉄印帳は三セク鉄道再生の起爆剤となれるのだろうか。カギを握るのは、沿線の自治体や民間企業・団体だ

くま川鉄道の永江社長は、「観光列車だけ作ってもハコモノに過ぎない。土地の魅力を発信しないとだめだ。鉄道会社だけでなく、地域が沿線地域を観光コンテンツとしてしっかり計画を立ててルート作りをしないと客は来ない」と話す。

いすみ鉄道では、沿線の観光スポットになっている菜の花畑の種まきを毎年、鉄道職員が地元住民とともに行っている。今年は地元の大学とタッグを組んで幼稚園児たちを招いた菜の花イベントも開催予定だ。

古竹社長は「地域とつながって、たとえ住民があまり鉄道に乗車しなくても鉄道が地域の大きな柱になりそこに人が集まってくるようにしたい」と、運賃収入に必ずしも直結しなくても地元との協力関係作りの大切さを強調した。

鉄印帳を三セク鉄道だけでなく、地域振興のてこにしようという、三セク協の取り組みには、さまざまな分野で支援と理解が広まっていきそうだ。

来年は東日本大震災から10年の節目となるため、東北地方の三セク鉄道ではさまざまな行事を企画している。復興の気運を盛り上げるために鉄印帳が一役買うことも可能だろう。

旅行会社のなかでは、地方へのパッケージ旅行を多く企画している読売旅行と、鉄道ツアーを得意とする日本旅行がともに鉄印を集めるツアーを作って販売中だ。三セク鉄道を効率よく回ろうと思ったら、このようなツアーを利用するのもいいだろう。

入手可能なすべての鉄印を集めた人に与えられるマイスターカード。マイスターの名前はウェブサイトにも掲載される

鉄印帳で見えてきた三セク鉄道の起死回生の道筋にはまだまだ課題は多い。しかし、鉄道ファンや一般旅行者の支援に支えられて、鉄印帳がコロナ禍の中でもしぶとく生き残っていくのは確実だ。