なぜ開始2ヵ月で、三セク鉄道の「鉄印帳」が大人気となったのか

すべての鉄印を集めた人も続々登場
坂元 隆 プロフィール

天竜浜名湖鉄道では社長自らが記帳

予想を上回る人気に三セク鉄道の側からはうれしい悲鳴が上がっている。

天竜浜名湖鉄道の受付窓口のある天竜二俣駅(静岡県浜松市)では、長谷川寛彦社長が窓口に立ち、自ら鉄印帳に記帳している。これまで記帳した鉄印帳の数は1000冊以上だ。

社長が自ら記帳するのは、元々書道のたしなみがあったためだが、もちろんそれだけではない。記帳しながら鉄印をもらいに来た客と言葉を交わすと、たいてい駅の売店で売っている記念品やお土産を買っていってくれるのだという。

 

「今年は(前身である国鉄二俣線の全線)開通80周年でさまざまなイベントやグッズ販売を企画していたが、コロナ禍で全部中止になった。昨年より大幅な減収となる見通しなので、なりふり構わず収入の確保をしなければならない」(長谷川社長)

ほかの三セク鉄道各社でも多かれ少なかれ似たような状況となっている。筆者が訪れた北関東の三セク鉄道でも、受付窓口に「鉄印帳売り切れ」の貼りだしがあっても、鉄印を求めて訪れる観光客が絶えなかった。

首都圏に一番近い三セク鉄道で、これまでに観光列車やラッピング車両など観光客を呼び寄せるイベントで注目を浴びてきた千葉県のいすみ鉄道の古竹孝一社長も、「(鉄印帳は)正直言ってすごい人気」とおどろきを隠せない。

鉄印帳の人気の理由

鉄印帳の人気の理由は何だろう。

まず言えるのは、鉄印帳によって初めて相互に関係なくばらばらだった全国の三セク鉄道40社が一体となり、三セクを巡る旅が四国のお遍路のように全国規模でいわばシリーズ化されたということだ。

これまで各社ごとに行われていたスタンプラリーだと一つの鉄道の路線を乗ってしまえばおしまいだが、鉄印帳では、一つの鉄印を獲得しても新たな鉄印を求めて次の三セク鉄道に行きたくなる。筋金入りの鉄道ファンであればどうしても全社制覇したいという気持ちになるだろう。

一方で、コロナ禍で人の移動が制限されるという特殊な時代環境も関係しているようだ。

我慢してきた旅行には行きたいが、海外旅行は不可能だし、国内でも人の多く集まる場所はリスクが高い。となると、旅先は、有名な観光地ではなく、訪れる人の少ない「いなか」が選ばれるようになる。

三セク鉄道のほとんどは国鉄やJRの赤字ローカル線か、整備新幹線開業に伴ってJRから切り離された並行在来線が母体となって設立された。沿線の多くが過疎化の進んだ地域であり、コロナ時代の旅先としてはある意味ふさわしい。

緑の中、鉄橋をわたる天竜浜名湖鉄道の車両(天竜浜名湖鉄道提供)

加えて、鉄印集めに参加することで、経営の苦しい三セクと過疎に悩む地域の手助けをする旅の「大義名分」も立つ。事情は三セク鉄道側にとっても同じだ。

天竜浜名湖鉄道の長谷川社長は、「全国の観光客に訪問してくださいと呼びかけたいところだが、今の世の中だとなかなか難しい。鉄印がその呼びかけをする役割を果たしてくれている」と指摘した。

天竜浜名湖鉄道では長谷川社長みずから鉄印を記帳してくれる(天竜浜名湖鉄道提供)

観光で補っていくしかない

三セク鉄道が鉄印帳に期待を寄せる背景には、三セクならではの苦しい台所事情がある。

三セク協によると、加盟40社のうち2019年度に経常利益で黒字となったのは7社しかない。全体の8割以上の社が赤字ということだ。設立以来赤字という会社も少なくない。当然、コロナ禍で乗客数が激減している今年度は、経営状況がさらに苦しくなる。