大切なのは声を聞き、共感すること

産後うつは取り組めば解決する、という海老根さん。

「産後に体調が悪いと、お母さん自らが子どもを連れて病院に行くことができません。家族が一緒に病院に行ってほしいです。治療は抗うつ薬も有効ですが、内服薬に対してお母さんたちの抵抗もあります。滋養強壮の漢方を飲んでもらう方法もあります。カウンセリングだけでやっている精神科クリニックもあります。助産師が、お母さんだけでなく家族や夫のケアもします。自費診療になってしまいますが、手厚いケアが受けられます」

「あとは、単純なようですが、家族や身近な人がお母さんを褒めて支えるという方法は有効です。傾聴して、共感する。そうすればお母さんが孤独で我が子を虐待してしまうのを防げる。関わり方がわからない人も、『赤ちゃんかわいいね』と言ってくれたら大丈夫なんです」

バスや電車など公共の乗り物で赤ちゃんが泣いた時、誰よりも「泣き止ませたい」と思うのは母親だ。「泣き止ませろ!」などという声は深く心に突き刺さる。「赤ちゃんは泣くものだから大丈夫」という空気があるだけで、母親は救われるのだ Photo by iStock

子育て中、家がぐちゃぐちゃも仕方ない

海老根さんはこうアドバイスする。「産後、外に出られない時期があります。母子を2人きりにしないように、家族や友達がいてくれたらいいと思います。ところが、今は産後の片付かない部屋にお客さんを迎えたくないという人も多いですよね。私は妊婦さんに、『先に産んだ人の家にお泊まりに行ってみて、お子さんたちが元気で家の中がぐちゃぐちゃでも気にならないから』と話します」

また、家事・育児の外注も提案する。「昔の大家族のようなスタイルは理想的ですが、リアルの家族はみんな忙しい。だから地域で手が空いている高齢の人に、家事や上の子の送り迎えなど助けてもらえたらいいと思います」

夫婦でできること、できないこと

筆者の取材の中でも、「夫の暴言がひどく赤ちゃんを連れて逃げた」「一生、夫を許せない」といった夫への不満が多い。逆に夫からの「こうやって努力している」「長時間労働に家事・育児はきつい」といった声もある。一番、身近で難しい関係について、海老根さんはこう語る。

「そばにいる夫に、一番の理解者でいてほしいです。妻を肯定する夫は大丈夫。最近、夫のスキルも上がっていて子育てが得意な人も多い。一方で、夫も産後うつの妻を支えてうつになる可能性があるので、妊娠中に細かく話し合っておくといいですね。お互いに何ができるか、できないのか、生活はどうするか。産後に、日常の家事や育児について夫婦2人でゆっくり話し合う時間はないですから」

取材を通して、産後まもなくの間だけでなく、産後うつをこじらせて不調を抱え、子育てに困難を感じ続ける親もいると知った。筆者も39歳で初産後、1年で職場復帰し、子どもの病気と会社勤めで家庭は修羅場に。結果、退職して新しい仕事の形を模索しているが、娘が小学生になった今も働く母親のハンデは大きいと感じる。

2人、3人と産んだ親はずっと産後が続く。筆者も産後の大変さは一生、夫婦で分かり合えない部分があると思っている。夫と話し合おう、周囲は理解をと言っても、命がけの母親にはきれいごとかもしれない。それでも、母子で入院できる産後ケアセンターが増えているし、乳児訪問に力を入れる助産師もいて、少しずつ進歩している。こうした記事で産後の現実を知ってもらい、具体的なサポートの手段と理解が広がってほしいと思う。

えびね・まゆみ 埼玉医大総合周産期母子医療センターを経て順天堂大産婦人科非常勤講師。白金高輪海老根ウィメンズクリニック院長。二児の母。