「ここに行けば治せる」場所がまだない

現在は、大学病院など医療の現場で妊娠後期から産後の周産期ガイドラインが修正され、こうしたメンタルヘルスに目を向けようとしている。行政も動き始めたが、まだ十分ではない。

「今まで、産後健診の助成はありませんでした。今年の4月から、産後のメンタルケアを含めた健診助成が始まったものの、自治体により差がある。産後うつの国際的な評価シートを、助産師が乳児訪問で取り入れても、点数だけではわからない部分もあり、そうした部分に精神科医や臨床心理士がどう入っていくかが課題です。地域の保健センターは、母子支援と精神疾患の支援が分かれています。これを分離せず連携させれば産後うつに対応できるのではないでしょうか」

「産後のお母さんたちにとって、助けを求めやすいのは出産した産院や助産師です。でも、産後しばらくたつと受診する理由がなくなってしまいます。また、産婦人科医はどの精神科医に紹介していいかわかりません。精神科でも、産後うつを得意とする専門家が少ないように思います。『ここに行けば産後うつを治せます』という場所はまだないので、なんとか改善したいと現場の私たちも働きかけ、(冒頭の)産後の自殺に関する調査が始まりました」

高学歴の女性は産後うつになりやすい?

具体的には、どのような仕組みで産後うつになってしまうのだろうか。

「医学的に見ると、産後はホルモンレベルが低く、ストレスに対処する能力が下がっています。そして慣れない子育て、昼夜途切れない生活に疲れがたまり、うつになりやすいのです」

「最近の傾向で、妊娠出産の知識がない高学歴の女性は産後うつになりやすいように感じます。それまで男社会で生きてきて、計画が立ちにくいという状況が得意ではないからかもしれません。妊娠初期にも、つわりで気持ち悪いとか出血があるとか、職場で誰に言えばいいかわかりません。さらに、育休を取るため上司に相談するのも戸惑ってしまうのです」

「お母さんたち同士の井戸端会議でわかるような情報も、仕事中心の人間関係では得られません。産後、ご飯も作れず、一人きりで奮闘しているお母さんのために、私のクリニックでは日帰りのケアを用意しています。スタッフが話を聞き、バランスのとれた食事、母乳マッサージやママ整体もあります。この一環で、井戸端会議ができるような産後の集まりや、カフェでのお話会もやりたいですね」

全部ひとりできちんとしなければと思う母親こそ危険だ。他人の助けを借りてもいいのだ(写真の人物は本文と関係ありません) Photo by iStock