リアルな育児の始まりと共に発症

海老根さんは1997年、厚生科学研究(九州大中野班)に参加。妊産婦に担当助産師を決め、メンタルヘルスの調査をした。

「国内で産後に落ち込む『マタニティーブルー』は、30%ほどのお母さんに見られ、それは1週間から2週間位の一過性のもので1ヵ月は超えません。産後1ヵ月ぐらいから産後うつを発症する可能性があり、3ヵ月でピークを迎えます。産後うつは10%ほどに見られます」

「産後1ヵ月の健診ではわからないことも多いです。里帰りをしていれば親の援助もあるものの、自宅に帰れば支えがなくなり、リアルな育児が始まる。新生児はよく泣く赤ちゃんへと変化していきます。6ヵ月までが特に産後うつを発症しやすい時期で、産後1年以内に発症する例が多いです。発症しやすい要因には、住居環境の不満足、産後の夫の家事時間が短いことなどがあります」(海老根さん)

筆者は産前産後に夫が海外に単身赴任しており、身内は遠方・高齢で頼れなかった。出産直後に激しいブルーに襲われて号泣。臨床心理士を紹介されてしばらくカウンセリングを受けた。産後は出血が続き、ぼろぼろの体で1日に10回以上の授乳やおむつ交換。細切れ睡眠でぼーっとした頭で、夜中に娘を抱えて「口を押えたら泣き止むかな」と考える自分が恐ろしかった。「虐待や産後うつは特別な例ではない」と実感した。

赤ちゃんは可愛い。きちんと育てたい。そう思っていても、密室にずっと二人きりで、何をしても泣き止まない場合、途方にくれてしまうことも多い Photo by iStock

虐待死の被害、0歳児が43%から65.3%に

実際に産後うつは、虐待にも結びつく。厚生労働省によると、2011年度に心中以外で虐待され亡くなった子58人のうち、0歳が43%で最多。1歳が14%と次に多い。死亡させた理由の上位は、1歳未満で、「育児不安や育児負担感」「産後うつ、育児ノイローゼ」が多かった。主な加害者は実母が約80%だった(編集部注:平成30年度の調査結果では虐待され亡くなった49人のうち、0歳児が65.3%となっている)。

厚生労働省「平成30年度 子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(14次)」より

「妊婦健診で産後うつを発症しやすい要因があるか、家族背景、経済的な問題といったリスクを早期に発見し、医師や助産師の介入や、精神科や他科との協力が必要。医療機関と行政との連携や、出産前からの情報交換も大事です。こうした介入や援助がないと、虐待に結びつきやすい。妊婦健診を受けず、サポートがなくて養育の意識が低く、ネグレクトになった例もあります」

妊娠中に夫から受けたDVが子への虐待につながるケースも見てきたという。「医療関係者は、意外にも虐待やDVに関する知識が乏しいです。警察、児童相談所、保健所、婦人相談センターなどの通報先すらわからない場合も少なくありません。医療者が感じる危機感を関係機関に伝えきれなかったり、母親の公的機関に対する不信感があったり、現実的な対応を協議するのに時間がかかり、対応が遅れがちです」