産後うつは甘えではない

産後うつは「甘え」です。

そんな、目を疑うようなツイートが話題を呼んだのは、2020年9月16日のこと。「うつ状態はあるがうつではない」という理由を根拠に、「産後うつで子育てや家事のできない奥様には叱りつけて躾けましょう」とも書かれていた。Twitterは多くの衝撃の言葉や反論であふれた。人に対して「叱りつけて躾ける」ことを是認する言葉に衝撃を覚えた人もいることだろう。

ちなみに厚生労働省の健康情報サイトe-ヘルスネットには以下のように書かれている。

「うつ病はとてもよく起こる病気ですが、女性の場合約12人に1人が一生のうち一度はうつ病におちいります。女性は男性の2倍うつ病にかかりやすいのですが、一生の中でも妊娠中や産後はとりわけうつ病がよく起こります

産後うつの危険性については、多くの医師のみならず厚生労働省をはじめとした公機関も提唱している Photo by iStock

遡って考えると、「うつ」という心の病そのものが長い間「怠け病」と言われ、周囲から理解される環境はなかった。自殺者の増加を受け、自殺の要因と職場の環境が結び付けられるようになったのが1999年。職場での心の病ですら、認められない時代が長くあったのだ。記憶の新しい所では、皇后雅子さまが2003年に体調を崩された時にも、怠け病と報じられることもあった。怠けと呼ぶということは、「甘ったれるんじゃない」という意味合いも持つ。つまりは体調が悪いことは甘えであり、そんな人は叱り飛ばせばよい、体調のケアをする必要なんてないということになる。

では実際、産後うつとはどのような背景があるのだろうか。胸ふさがれるような虐待事件には様々な要因があるが、「産後うつ」はその大きな原因のひとつだ。むろん叱り飛ばして良くなるものでは決してない。むしろ責め立てることで孤独を助長し、より一層危険な状態になる。

いま大切なのは心理的に辛い状況にある人を叱り飛ばすことではない。実態をきちんと認識し、子どもも親も健やかな環境にするために、何をすればいいのかを知ることだ。そこで、2018年にジャーナリストのなかのかおりさんが産婦人科医・海老根真由美さんに実態を伺って寄せてくれた記事を、再編成してお届けする。ちなみに、新しい数字の出ているものは本文中に編集部注として記載している。

23区で10年間に63人の妊産婦が自殺

私はワンオペ育児に苦心した経験から、産後うつの取材をしている。記事に対して「私も赤ちゃんを投げ捨てようと思った」と切実なコメントが寄せられ、この瞬間にも「もうだめ」とツイートする母親たちがいる。産後うつが影響する児童虐待のニュースも後を絶たない。医療機関や行政の課題は何か。身近な家族や友人ができることは――。

国立成育医療研究センターと聖路加国際大、東京大は、産後1年未満の自殺件数や背景を明らかにする研究を進めている。昨年度に調査を終え、今年度末までに結果を発表したいという(編集部注:その後、国立成育医療研究センター研究成果として2018年9月5日、2016年までの2年間で102人の自殺者がいたと発表した)。母親のメンタルヘルスケアの充実や関係機関の連携を進める目的だ。日本の妊産婦死亡率は出産10万人に対して3.8人と、医療技術の向上で低くなっている一方、産後うつなどの実態はわかっていない。

東京都観察医務院などの調査で、東京23区で2005年から10年間に63人の妊産婦(妊娠中~産後1年未満)が自殺したとわかった。これは出産10万人に対して8.7人と高い数字だ。産後の母親の様子に詳しい医療関係者がいないので調査結果が少ないが、海外のデータと比べても多いという。他に、大阪市で2012~2014年に妊産婦の自殺は9件、三重県では2013~2014年に4件との報告がある。