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無期懲役の殺人犯を9度の減刑で自由の身にした中国のトンデモ司法

釈放半年後に口論殺人でインチキばれる

「マスク殺人」の顛末

2020年3月14日の午後3時頃、北京市東城区光明路7号にある大型スーパーマーケット「物美大売場(Wumart Hypermerket)」の光明楼店で客同士の口論が暴行に発展する事件が発生した。

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暴行を働いたのは光明楼店から500メートル程離れた崇文区夕照寺に住む38歳の郭文思(かくぶんし)であった。彼は購入する商品の支払いを済ませようとレジの順番待ちの列に並んでいたが、物美大売場の入店条件である「マスク着用」に違反してマスクを外していたのだった。

3月15日に開催された北京市の「新型コロナウイルス関連肺炎疫病予防制御工作」に関する記者会見で発表されたのは、最近は国外から流入した新型コロナウイルス肺炎の患者が増加傾向にあり、北京市において3月14日24時までに報告された国外から流入した感染病例の累計は27例であるということだった。

3月10日に湖北省武漢市を視察した国家主席の習近平は「新型コロナウイルスの感染を基本的に抑え込んだ」と宣言したが、その直後の北京市では新型コロナウイルスの感染が流行する兆しが見られ、北京市民は新型コロナウイルスに対して今まで以上に神経質になった時期だった。

レジの順番待ちの列で郭文思のすぐ前に並んでいたのは72歳の段暁山だった。

段暁山(だんぎょうざん)は自分の後ろに並ぶ郭文思がマスクを外していることに気付くと、思ったことはずけずけ発言する中国人の行動パターンに従い、郭文思に対して「あんたは何でマスクをしていないのだ。この店はマスク着用が入店条件なのだから、今すぐマスクを着用しろ」と文句をつけた。

段暁山の言葉を居丈高なものと受け止めた郭文思は「うるせえぞ、ジジイ。てめえは黙てろ」といった調子で反撃したが、これに激高した段暁山は声を荒げて「黙ってマスクを着用しろ」と郭文思を再度怒鳴りつけたらしい。

売り言葉に買い言葉で、すっかり頭に血が上った郭文思は「ジジイが偉そうにほざきやがって」と叫ぶや否や、両手を伸ばして段暁山の身体を捕まえるとその場に押し倒した。怒りで我を忘れた郭文思は倒れた段暁山に馬乗りになり、両手の拳を固めると段暁山のこめかみ部分を何度も殴りつけた。

こめかみには中国医学で言う「太陽穴」というつぼがあり、そこを強打されると致命傷になる危険性がある。こめかみを執拗に殴られた段暁山はその場で人事不省に陥り、医院へ緊急搬送されたが、6日後の3月20日に外傷性脳損傷で死亡した。

一方、加害者の郭文思は段暁山が意識不明になったのを見て我に返り、慌てて逃げ出そうとして、これを阻止しようとするスーパーマーケットの店員たちと揉み合いになった。郭文思は店員2人を負傷させたが、そのうちの1人は郭文思に噛みつかれたのだという。

最終的にその場で取り押さえられた郭文思の身柄は北京市公安局へ引き渡された。事件発生から2週間後の3月28日に北京市人民検察院第二分院は故意傷害罪で郭文思の逮捕を許可すると同時に事件の全容を北京市民へ公表したのだった。

その結果、マスクの不着用を注意されたことに激高して、72歳の老人を殴り殺した極悪人の名前が郭文思であり、その同一人の郭文思が2005年2月24日に故意殺人罪で無期懲役に処せられたにもかかわらず、その後に9回の減刑を受けたことで2019年7月24日に刑期満了で釈放されたという手品のような過去を持つ経緯が明るみに出たのだった。

 

無期懲役に処せられたはずの郭文思がどうして釈放されて自由の身になっていたのか、中国の世論はこの点について疑問を投げかけたのだった。