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竹中平蔵氏の「雇用流動化」政策が、中国で人気になっている理由

日中で共鳴する新自由主義の行方(2)

あの竹中平蔵氏が、中国で大いに人気を集めているらしい。中国の人々はいったい竹中氏の何に惹かれ、彼から何を得ようとしているのか。その背景を追っていくと、日中で共振する「新自由主義」の動きが見えてきた。神戸大学・梶谷懐教授による全3回のレポート。

第2回となる今回は、新型コロナウイルスの感染拡大によって深刻な失業率の上昇を経験した中国社会が、それでも不安定しなかったメカニズム、そして中国政府のコロナ対策と竹中氏が提唱する経済政策の類似について解説する。

【第1回はこちら】

中国政府のコロナ対応と労働の流動化

武漢市・湖北省をはじめとして、2020年初頭に中国全土を襲ったコロナ禍は、都市封鎖等を通じて人・モノの流れを停止させ、中国ならびに世界経済に大きな影響を与えた。

コロナ禍がもたらす需要・供給両面のショックに対して、中国政府がまず打った手は資金繰りに苦しむ企業への潤沢な流動性の供給である。2月1日には、中国人民銀行や財政部など経済政策を管轄する5つの部署が連名で、「新型肺炎流行の影響を最小限にするために金融政策を強化する通知」を発表した。

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この通知を受けて、中国人民銀行は直ちに、湖北省など肺炎の流行が深刻な地域の企業、医療品や生活物資を生産する産業、さらには都市封鎖の影響が大きい小売り、宿泊、飲食などの産業、小型零細企業などを対象として、人民銀行が定める貸出市場報告金利(ローンプライムレート、LPR)の水準を大幅に下回る低金利融資を実施した。

さらに政府は、期限付きの社会保障費や住宅積立金の免除、さらに特にコロナ禍の影響が大きい地域などの中小企業を対象とした減税などの財政出動を次々と行った。そのほか、感染症防止のための財政出動、人民銀行再貸出に対する金利補填など、これまで行われたトータルの財政支出規模はGDPの1.2%とされる。

ただ、この財政支出のレベルは他の主要国の対応と比べると、極めて抑制されたものだと言わざるを得ない。2020年3月以降、全世界への感染の広がりを受けて、日本や米国も含め世界の主要国は相次いで市民の生活を支える現金給付や休業を余儀なくされた企業や店舗への補償をこれまでにない規模で行ってきた。一方で、中国政府は、そういった財政支出による市民や企業への直接補償をほとんど行っていない

もちろん、さらなる財政出動の必要性は中国政府も認めている。例年よりも大幅に日程を遅らせて5月22日に全国人民代表大会が開幕した。5月28 日に報告された2020年の国家予算案では、コロナ禍に対応するためのさらなる財政支出拡大のために、地方特別債の発行枠を、昨年(2.15兆元)に比べて1兆6000 億元増やして3兆7500億元と大きく増加させることが明記された。

さらに、感染防止対策の費用に充てるための1兆元規模の特別国債を発行することも盛り込まれるなど、財政赤字は対GDP比の3.6%以上と、これまで事実上の「上限」と考えられていた3%を大きく上回り、財政赤字の額は2019年に比べ1兆元増加することが見込まれている(于=張=程、2020)。