もっとも歌舞伎らしいポジションは、中野渡頭取

また、今回は前作にも増して顔芸がパワーアップされ、「歌舞伎役者はこんなに表情筋を駆使した演技をするのか」、「こんな役者さんたちがいるなら本物の歌舞伎を見てみたい」と、歌舞伎に興味を持った人も多いようだ。

歌舞伎役者にとって顔は大事な道具です。江戸時代には電気がなく、芝居小屋は暗いので、顔の表情をお客さんにしっかり伝えるために目をむいたり歯を食いしばったり、目立たせるということをした。白塗りなどの化粧もそのためですね」(おくだ氏)

そのような歌舞伎メソッドは、これまで歌舞伎役者が現代物の作品、特にテレビドラマに出るときには、逆にリアリティがないということで使われなかったわけだが、それが『半沢直樹』では一転、やりすぎとも思える面白さが視聴者を引きつけている。特にコロナ禍の閉塞感が続く中で、そういうことがより痛快に感じられるのかもしれない。

「顔芸の競演と言われたりしているのは面白いですが、実は私が今回、最も歌舞伎らしさを感じる演技をしているのは北大路欣也さんです。東京中央銀行の中野渡頭取を演じている北大路さんは言葉少なく、喋るときも声をはり上げることはありません。にもかからず心に響いてくる……彼の演技には肚(=腹、はら)があるからです。

歌舞伎には【肚芸(はらげい)】という演技があります。それは、台詞や動作では派手な表現をせず、すべて抑制して、それでいて観客にはしっかり心の動きを伝えることができるような表現のこと。まさに中野渡頭取は『仮名手本忠臣蔵』の大星由良之助や『一谷嫩軍記』の熊谷直実のような、どっしりとした重厚感のある役どころですね」

北大路欣也が演じる中野渡頭取こそ、もっとも歌舞伎的立ち位置にいる役回りと分析。彼が最後にどう動くのか。イラスト/鎌田貴子

フィナーレに向けて、東京中央銀行の絶対的君主、中野渡頭取の動きがどうなるのか、も見逃せないところだ。「ドラマを見て歌舞伎に興味を持った人には、まず今回、出演している歌舞伎役者たちが出演する公演を見ていただきたい」、とおくださんはいう。“半沢”であのような演技をした人が、歌舞伎のホームグラウンドではどのような姿を見せてくれるのか、そこできっとさらなる魅力を発見できるはずだ。