歌舞伎らしさが騒動を盛り上げるカンフル剤に

次に、“歌舞伎らしさ”を感じさせるものがあちらこちらに見受けられるということがある。第7話では、審査部次長の曽根崎(佃典彦)を半沢と大和田が問い詰めるシーンで、「さあさあ、さあさあ!」と、ついに本物の歌舞伎の【繰り上げ(くりあげ)】(注2)の手法が登場したことがあった。また、そこまでズバリではなくても、一人が台詞を完全に喋り終えてから次の人が台詞を言う、というスタイルが確立しているのも歌舞伎と通じるものがある。

注2: 歌舞伎の型のひとつ。口論・問答などで詰めよる際に、台詞の調子を段々上げていくこと。「さあさあさあ」は代表的な表現。
市川猿之助が演じた伊佐山の「わびろ」連発も「繰り上げ」的な手法。澤瀉屋(おもだかや)らしい熱量が話題に。イラスト/鎌田貴子

香川照之が喉を掻き切るポーズをしながら言い放つ「お・し・ま・い・デス(death)!」や、「施されたら施し返す。恩返しです」などの台詞が話題を呼び、これらは台本にはない香川のアドリブだったというが、歌舞伎では、【捨て台詞(すてぜりふ)】(注3)というものがあり、アドリブはまさに日常的に舞台の上でその場の雰囲気を読んで台詞を繰り出すことに慣れている歌舞伎役者ならではのお家芸ともいえる。

注3: 歌舞伎には、役者がその場の雰囲気に応じて、台本にない台詞を即興的に言うことがあり、これを「捨て台詞」という。

また、第4話や第7話で半沢が敵役に見事な“やり返し”をし、バンカーの矜持をとうとうと語るカタルシス溢れるシーンでは、ピンと背筋を伸ばした美しい姿勢で立つ半沢の後ろに他の役者陣が控え、一定の距離を保って並んでいるのが、歌舞伎の舞台を彷彿とさせるという声もある。

一般視聴者の目線で考える歌舞伎らしさは主にそんなところだが、果たして『半沢直樹』は本当に歌舞伎なのか。専門家はぶっちゃけ、どう見ているのか、歌舞伎ソムリエのおくだ健太郎さんにお話をうかがってみた。

出典/youtube おくだ健太郎・歌舞伎ソムリエ
おくだ健太郎 歌舞伎ソムリエ
1965年、名古屋市生まれ。大学入学で上京後、歌舞伎に熱中する。歌舞伎座や国立劇場などの歌舞伎の同時解説のイヤホンガイドを長く務めたのち、現在は雑誌「ディスカバー ジャパン」へのコラム連載(歌舞伎キャラクター名鑑)、トークサロン「おくだ会」の主催などで、歌舞伎の楽しさを積極的に発信中。
「おくだ健太郎・歌舞伎ソムリエ」  http://okken.jp/