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手術「EXIT」に「さい帯血バンク」…へそ科学の最前線を学ぼう

あなたの知らない「へそ学」の世界(3)
「へそ」の謎を総合的に解明する「へそ学」の第一人者である北海道教育大学教授・岡田忠雄氏が、「へそは命を救う」と、へその様々な病気、へそを使った手術やさい帯血幹細胞移植に至るまで、分かりやすく解き明かしてきます! すごい手術EXIT (エグジット)や「さい石」(ゴーマ)とは一体!?

第1回: ようこそ「へそワールド」へ!女子大生が最も気にするのはへその●●

第2回:出べそ手術、へそ格差、へそ責め愛好家……へそは実に奥深い

 なぜ「へそ」は感染するのか 

へその病気を先天性の病気(何らかの病因が生まれる前や生まれたときからある)と後天性の病気(その病因が生まれた後の原因による)に分けて分類しました(下表)。

先天性の病気 後天性の病気

さいヘルニア

さい肉芽腫

出べそ(さい突出症)

さい感染症

さい帯ヘルニア

さいヘルニア(成人発症)

尿膜管遺残症

さい石
さい腸管遺残
(さいポリープ・さい腸ろう・メッケル憩室)

シスターマリー・ジョセフ結節(がんのへそ転移)

*医学ではへそをさい(臍)ということが多い。

先天性の病気の多くは子ども、特に赤ちゃんに発生するものが多いことが特徴です。

赤ちゃんの病気は、お母さんから生まれる前から超音波検査などで出生前診断されることもあり、その代表例はさい帯ヘルニアです。

このさい帯ヘルニアでは、肝臓や腸が赤ちゃんのへその緒を通してお腹の外に脱出していて、その病型によりますが、緊急手術や人工呼吸器管理などの新生児集中治療が必要です。

赤ちゃんを手術して治すことを新生児外科治療といいますが、自身が関わった小児外科医療の花形領域の一つとされています。

 

へそが何らかの原因菌で感染することを臍感染症といい、へそが赤くなって腫れて痛くなって熱感を伴います。

では、なぜへそは感染するのでしょうか。胎児期(赤ちゃんが母親のお腹の中にいるとき)には、正常のヒト発生過程として、胎児のへそは小腸と膀胱につながっています。

へそが小腸や膀胱とつながっているなんて、意外に思われる方も多いのではないのでしょうか。

その痕跡を残して生まれてくるのが、さい腸管遺残と尿膜管遺残といい、へその近傍に管や袋状のものが残りますが、極端な場合は、さい腸管遺残では小腸と交通したまま生まれてへそから胎便が出るや、尿膜管遺残ではへそから尿が出ることもあります。

この残った構造物が感染することもあるし、関係がなくて、へそ自体が感染することもあります。

へそはしわが多くて垢が貯まりやすいので、感染することはイメージしやすいかもしれません。

そこで具体的にへそにどのような菌がいるかを調べた研究があります。

それは、へそのヘルニア(さいヘルニア)で入院した2歳前後の子ども104例中45例(43%)に細菌(39例にブドウ球菌、6例にその他の菌)がいたとし(宮城久之ら、日本小児外科学会雑誌、2018)、この結果から幼少期の2人に1人はへそに細菌がついていることが推測されます。

へそ感染の予防の意味からもへそは入浴時などに洗う方がよいのではないでしょうか。

命に関わるケース

胎児のさい帯(へその緒)の長さは約50~60cm、直径が2cmほどなのですが、胎児のときにさい帯のどこかが(複数のこともある)潰瘍をきたすことで、さい帯血管が傷つきさい帯から出血が続き、胎児貧血に至って赤ちゃんの命に関わることがあります。

その病因としては、胎児の十二指腸や小腸上部に生まれつきに腸の内腔が閉じている先天性腸閉鎖症が挙がります。

この病態では、胎児の腸の中を流れる胆汁酸や膵酵素が腸が閉鎖しているが故に、羊水中に流出して、さい帯を覆うワルトンゼリーが溶けてさい帯血管が露出して破綻するとされています。

先天性腸閉鎖症は約2,000~5,000出産に1例の頻度で発生し、その6.5~13.6%(Kimura T, et al Fetal Diagn Ther 2003)に臍帯潰瘍が発症するとされ、赤ちゃんの命を守る意味でも周術期管理上重要です。

小児外科医や新生児科医などは、起こりえる併発症を常に念頭におきながら即時対応ができるように日々努めているのです。