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「暴君」はなぜ生まれるのか、シェイクスピアが教えてくれること

まるで現代を予言しているようだ

暴君――シェイクスピアの政治学』(スティーブン・グリーンブラット著、河合祥一郎訳、岩波新書)が刊行された。シェイクスピア研究の大家である著者が、シェイクスピア作品を通して、なぜ暴君は生まれるのか、暴君とはどのような存在なのか、私たちはどうして暴君を求めてしまうのかといった問題に向き合った話題作だ。

現代的な問題意識に満ちた同書を、どのように読むことができるのか。明治大学准教授で政治思想史が専門の髙山裕二氏と、武蔵大学准教授でシェイクスピア研究が専門の北村紗衣氏が論じる(髙山氏の論考は1〜4ページ、北村氏の論考は4〜6ページです)。

シェイクスピアの肖像画〔PHOTO〕Gettyimages

「暴君」とは何者か? シェイクスピア研究の大家が解き明かす

髙山裕二

暴君の魅力と専制への階段

史上最強のハンターといえばティラノサウルスである。全長13メートルにも及ぶ最大級の肉食恐竜の名前の由来は、ギリシア語のティラノス(tyrannos)とサウロス(sauros)とされる。これは暴君トカゲを意味する。その並外れた咬合(こうごう)力で、ありとあらゆる生き物を捕食し向かうところ敵なし、まさに地球上で「暴君」として振る舞った。

とはいえ、その化石が発見されて以来、暴君トカゲは、子どもはもとより多くの大人を魅了してやまない。未解明の部分は多いが、そこは想像力で補いながら、それぞれに暴君像を描いて楽しむのである。それは大きな恐怖を抱かせると同時に、笑いを誘うような間抜けな存在としてしばしば描かれる。

 

「暴君」は人びとを魅了してきたのだ。いったいなぜ? そして彼・彼女は何者なのか? そうした問いをシェイクスピアに尋ねたのが、本書『暴君――シェイクスピアの政治学』(河合祥一郎訳、岩波書店、2020年)である(原著は2018年刊行)。

著者スティーヴン・グリーンブラットはハーバード大教授で、シェイクスピア研究の世界的権威である。著者は問う。「嘘つきで粗野で残酷だとわかっても、それがある状況では致命的な欠点とならずに、熱烈な支援者を惹きつける魅力となるのはどうしてか?」(p.3)。これが本書の問題関心である。