2014年に13年間のOL生活からライターへとキャリアチェンジ。2020年からデンマークに移住し、現地の文化に生で触れる小林香織さんの連載、今回は、50歳でシングルマザーとなったデンマーク人女性をインタビュー。

体外受精(IVFを含む生殖補助医療技術(ART)の分野で、世界をリードするデンマーク。ここには世界最大の精子バンク「Cryos International」があり、デンマークにはドナー提供によって生まれた子供が多く存在する。

首都コペンハーゲンに住む52歳のデンマーク人女性・カーン(Karen)さんも、そのひとり。43歳から体外受精による不妊治療をスタートさせた彼女は、流産をはじめ、さまざまな壁にぶつかりながらも、50歳で念願の出産を果たす。ドナー提供による卵子と精子を体外受精した後、カーンさんの子宮に戻して発育させ、出産した。

今回、カーンさんの家に宿泊ゲストとして3週間滞在し、彼女の子育ての様子を目の当たりにした私が、デンマークの不妊治療事情、そしてシングルマザーの子育てと福祉制度について、カーンさんのエピソードをもとに綴る。

未婚でも40歳まで不妊治療が無料

フレイアちゃんは好奇心旺盛で外遊びが大好き 撮影/小林香織

日本では、「不妊治療=高額で苦労を伴うもの」という印象が強い。一般的な治療はタイミング法、人工授精、体外受精とステップアップし、人工授精は1回1〜2万円(保険適用外)、体外受精だと1回平均30万円ほどの予算が必要となる。ただ、一定の条件を満たせば、国の特定不妊治療費のほか、自治体独自の助成が利用できる。

もし、自身の卵子や精子では妊娠が見込めない場合、ドナー提供を検討することになるが、日本では現状、卵子提供などの生殖補助医療に関する法律や規制は存在していない。ドナー提供を伴う体外受精を希望する場合、アメリカ、ロシア、アジアなどの外国を訪れ、治療を施す必要がある。

費用はクリニックや渡航先の国によって変動するが、卵子提供による体外受精の場合、250万円程度が目安となるそうだ。

一方、高福祉・高負担で知られるデンマークでは医療費が無料であり、タイミング法と人工授精による不妊治療も全員が無料で受けられる。体外受精は、「40歳未満」「同じ父親との間に子供がいない」という2つの条件が当てはまれば、公立病院での治療が無料となる。さらに、既婚女性だけでなく、独身女性やレズビアンの女性も対象となるのだ。

条件を満たさず自費で体外受精の治療を受ける場合でも、カーンさんの話によると、精子提供代を含んで、1回あたり22,000クローネ(約37万円)と日本人が外国に行って治療する場合の1/6以下の費用で済む。最後の治療から3ヵ月以内に治療が開始され、以前の治療で妊娠していない場合は1回あたり、18,000クローネ(約30万円)に減額される。

女性は46歳を超えると不妊治療そのものが受けられなくなるが、男性は生涯無料で治療を受けられるという。

薬代は年齢に関係なく自己負担になるが、薬代の総額が増えるほど、その負担額が減るシステムで、長期になれば100%の薬代の補償が受けられることもあるという。

このように不妊治療を受けやすい体制が整っていることから、デンマークでは「ドナー提供による出産は一般的な選択肢」として認知されているようだ。デンマークに長く住む日本人女性に聞いたところ、知人に数人の経験者がいるとのことだった。