多様性は葛藤を生むが、「新しい自分」も生む

本作は爽やかな感動をもたらすストーリーだが、実は私たちにとって不都合な真実を突きつけている。それは、「多様性は葛藤を生み出す」ということだ。ビリー一家が中国からアメリカに移住した一方、ビリーの伯父一家は日本に移住した。同じように外国に移住していても、ビリーの父親は自身をアメリカ人、伯父は自身を中国人だと捉えている。

面白いことに、同じ家族に育ち、似たような人生の選択をしても、自分のなかの“中国人度”が違う。このような設定にしたのは、「自分のアイデンティティは自分だけのもの」というワン監督の信念に基づくという。監督は、「中国人とかアメリカ人とかではなく、自分なりの新しいアイデンティティを作ってもよいのでは?」と観客に問いかけているのだ。

『フェアウェル』より

ビリーの親族が集まり、テーブルを囲むシーン。そこで彼らは近況を報告し合ううちに、お互いの価値観のズレに気づき、和やかな雰囲気が一気に不穏になっていく。こういった場面を通して、本作は現在ポリコレの代名詞のように叫ばれるダイバーシティ&インクルージョンが、心地よいどころか実はやっかいなものにもなり得ることを示唆している。

異なる意見が生じたとき、私達はどうするか。相手を自分の考えに変えようとするのか、お互いに変わろうとするのか。それとも、お互いへの愛も自分の意見も失わずにいられる方法があるのか。愛している人に反対することは可能なのか。こういった問いかけに、正解はないと思います。その答えは観客の皆さんに委ねたいと思います」

ビリーは中国で多様なアイデンティティや価値観に触れて、新たな自分を見出していく。家族は食卓を囲み、怒ったり泣いたり、喧嘩したり笑ったりする。摩擦を起こすのが家族であり、人間。多様性は実は心地がよくないかもしれないが、新しい自分を発見する手助けをしてくれる――そう教えてくれる本作は、今の日本人に観てほしい1本である。

映画『フェアウェル』は10月2日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
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配給:ショウゲート