「どこにも帰属意識を持てない移民1世のつらさを目の当たりにしていたからだと思います。映画でもそうですが、ビリーの親は大人になってアメリカに来たから、アメリカの文化や歴史が自分の中にない。だから自らをアメリカ人とは思えないんです。かといって、中国にも居場所がない。アメリカ人にも中国人にもなれない。これが長い間、中国系アメリカ人が感じてきた葛藤でもあります。

でも、いまの若い世代は、『自分だけのアイデンティティ』を作ることができると知っています。アメリカ人だけど、それだけではない新しいアイデンティティを」

『フェアウェル』より

『フェアウェル』は「アメリカ映画」

こうしたアイデンティティの葛藤は、多民族国家であるアメリカにおいてはアジア系に限ったものではない。だから、本作はアジア系が主役でありながらも、移民大国である「アメリカの物語」だと筆者は感じた。そのことをワン監督に伝えると、彼女は次のように語った。

「白人のアメリカ人にとっては『パラサイト』も『フェアウェル』も一見、同じ文化のように見えるかもしれません。でも、『パラサイト』は外国映画で、『フェアウェル』はアメリカ映画なんです。本作を見てアメリカ人に感じてほしいのは、自分達とは人種的に違っていても、アジア系も同じ傘の下で生きているアメリカ人なんだ、ということ。

ハリウッドを含め、アメリカには構造的人種差別があります。アジア系の映画人は予算をとるにも役を勝ち取るにも、そういった差別と戦ってきた歴史があります。なによりも、私たち有色人種のアメリカ人はずっと、自分たちが語る物語はアメリカの土壌には合わないし、誰にも興味をもたれないと言われ続けてきたんです。私たちもアメリカ人なのに」