コロナ禍で大打撃を受けたライブエンタテイメント業界。公演の中止や延期が相次ぐ中、有料のオンラインライブが急速に広まり、定着しつつある。6月25日に行われたサザンオールスターズの無観客配信ライブは約18万人がチケットを購入。他にも星野源や長渕剛など多くのアーティストがオンラインライブを開催している。
オンラインだからこその新たなライブ表現も広がっている。なかでも8月15日、16日に開催されたサカナクション初のオンラインライブ「SAKANAQUARIUM 光」は、“ライブ映画”というコンセプトのもと、こだわりぬいた演出の数々で注目を集めた。
こうした現状は、音楽業界の先行きにとって、いかなる意味を持つのか。オンラインライブにはどれほどの収益性があり、どのような課題があり、そして今後に向けてどんな可能性が広がっているのか。
エンターテインメント業界の次代のキーパーソンたちが、コロナ禍の現在とこれからを発信する連載企画「Breaking the Wall」。第2回は野村達矢氏(一般社団法人 日本音楽制作者連盟理事長・株式会社ヒップランドミュージックコーポレーション代表取締役社長)へのロングインタビュー。前編では野村氏がプロデュースを手掛けたサカナクションのオンラインライブの裏側から、今後のライブエンタテイメントの可能性まで語ってもらった。
――現在、さまざまなアーティストがオンラインライブを開催しています。多くの試みがなされているなかで、サカナクションの「SAKANAQUARIUM 光 ONLINE」は大きな話題を呼びました。こちらはどういった考えのもとに臨んだんでしょうか。
我々音楽エンタテインメントの世界は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、まず2月26日という早い段階からライブができなくなりました。
その後に緊急事態宣言が出て、外出や人と集まることもままならない状態になり、それが明けたくらいに、いよいよ再開に向けた動きについてエンタテインメント業界全体で話し合ってきました。
そうした中で5月に経産省からJ-LODlive補助金(コンテンツグローバル需要創出促進事業費補助金)という年間878億の再開支援策が決まり、ライブを再開するにあたって経費の50%に関して国からお金が出る仕組みが始まりました。
それを上手く使ってライブスタッフの仕事を作っていく必要もありますので、ライブエンタテインメントに関わる仕事を創出するという意味で、何らかのライブをやろうと準備していきました。
サカナクションとしても6月頃からライブの準備を始めていきました。
リアルなライブはまだ難しくオンラインライブをやろうという話になったときに、ボーカルの山口一郎から「観客のいないところに向かってライブができるのか、モチベーションが保てるのか不安だ」という話がありました。
そこからいろいろ話す中で、オンラインライブの表現として、だいたい3つくらいのアプローチがあるということになったんです。
――3つのアプローチというと?
まずひとつは、疑似ライブのように、普段と同じステージに立ってお客さんがいない状況でライブをやる。2つ目は、テレビの音楽番組のようにそもそもお客さんがいないという前提でライブパフォーマンスをやる。3つ目は、ミュージックビデオのような映像表現としてのライブ、作品性やアート性の高いものとしてライブを見せる。
大きくわけてこれくらいのオンラインライブのアプローチがあるという話をして、サカナクションが選択肢として選んだのが3つ目の方法でした。
――そこから前向きな考えに変わった。
はい。こういうコロナ禍の時期だからこそ、アーティストとして表現方法やアウトプットのチャンネルがひとつ増えたことを一つのチャンスと捉えようということが、山口一郎の発信としてあった。
というのも、今までの音楽ビジネスには、大きくわければ、レコーディングした音源を複製するという複製ビジネスと、ライブを開催する興行ビジネスというふたつのチャンネルがあったわけです。
そこにもうひとつ、オンラインだけれど生で音楽を表現するというチャンネルが増えた。そのことを前向きに考えようということですね。
加えて、ライブという言葉を使う以上は完全に生でやることにこだわって、ファンの方々と同じ時間を共有するということも大事にしてやっていこうということもありました。
そういういろいろな前提をメンバーやスタッフの中でも共有した上で進みはじめたというのが、今回のライブの出発点でした。