『盗作』(初回限定盤)

なぜヨルシカは熱狂的なファンを獲得したのか? その芸術論を徹底分析

「盗作」と「模倣」(ミメーシス)

2020年現在、日本の音楽シーンを沸かせているヨルシカは、物語と音楽を組み合わせた手法を用いた表現者である。

ただし作品をつぶさに見ていくと、物語を用いた音楽の作り手としては、倒錯的なことを訴えている稀有な例であることがわかる。

そしてその一方で、思春期・青年期の人間のこころを撃つ論法を使っているという意味では、普遍的な事例でもある。

これはいったいどういうことか――そもそもヨルシカとは誰か、ということから紐解いてみたい。

ヨルシカとは? ボカロP出身n-bunaが物語と音楽を融合させた作品を展開

「ヨルシカ」は、ボーカロイドを用いた作曲家(ボカロP)としてネット上で活動し、「ウミユリ海底譚」などで人気を博したn-bunaがボーカリストのsuisと結成したバンドである。

「2020年 ネクストブレイクランキング-アーティスト編(Deview調べ)」の10代・20代部門2位、「第34回日本ゴールドディスク大賞」ベスト5ニューアーティストにも選出されている。

 

その特徴のひとつめは青空、海、少女といった日本の若者向けサブカルチャーに頻出するエモく青春の匂いのする表象を用いたギターロックという点にある。

ふたつめは歌詞、MV、CDの初回限定版に付けた手紙や小説などによって物語を表現していることにある。

ヨルシカが大衆的な支持を得たのは前者のクオリティの高さゆえであることに疑いはないが、熱狂的なファンを獲得し、メディアでも注目されているのは後者が理由だ――本稿でも後者について掘り下げていく。

たとえば2019年4月に発売したメジャー1stアルバム『だから僕は音楽を辞めた』と2019年8月発売の2ndアルバム『エルマ』は対になっており、エイミーとエルマというふたりの人物の物語が描かれていく。

2020年7月に発売された3rdアルバム『盗作』の初回限定版CDはハードカバーの書籍を模しており、収録楽曲の歌詞にくわえてn-bunaが書き下ろした約130ページほどの中編小説が掲載され、作中人物が弾いたという体のベートーヴェン「月光」の演奏をおさめたカセットテープも付いてくる。