群像新人文学賞作家・崔実が明かす、他界した編集者との「約束」

「書き直し!」と、頻繁に夢に現れて
崔 実

沢山の人に支えられて

それから数ヵ月後、体調を崩して実家に移り、総合病院で検査を受けた結果、癌の可能性があります、と医師に告げられた。

後日、紹介状を持って都内の病院に入院して、幸い、癌ではないことが解り、3ヵ月の入院生活と自宅療養で落ち着いたのだが、とし子さんはどんな気持ちで検査結果を待ち、病院のベッドにいたのだろうと、考えずにはいられなかった。

誰が傍にいて、どんな話をしたのだろう。小説を書くには、病院や命の話からは逃れられなかった。とし子さんにこそ、言いたいことが山ほどあるはずだろう。

 

小説と葛藤していた期間、なんだか絶望して孤独に陥りがちだったけど、とし子さんをはじめ、本当に沢山の人に支えられていた。

家族、友人にとどまらず、主治医や患者仲間、文学交流会で知り合った作家仲間、逃避先で出逢った現地の人や旅人、少し会話を交わしただけの名も知らない人。

そしてもちろん、とし子さんが大好きだった編集者の方々にも。彼女たちと作品を仕上げることができたのは、本当に心から嬉しい。

とし子さんが読んだら、何と言うだろうか。こちらの心まで読む人だったから、わたしには想像もできない。

生前、一方的に正体がばれているのが歯痒くなり、小説を書こうとしたことはありますか、と訊いてみたことがあった。とし子さんは、ない、と首を振ったけど、後に好きな本を一冊送ってくれた。

いつか、わたしの作品も彼女のリストに入れたら、本当に誇りに思う。コロナが落ち着いたら、必ず会いに行く。