群像新人文学賞作家・崔実が明かす、他界した編集者との「約束」

「書き直し!」と、頻繁に夢に現れて
崔 実

「書き直し!」と夢に現れて

わたしと、とし子さんは同じ9月6日生まれで、誕生日の二日前だったか、書店訪問の後に下北沢で合流し、わたしはサプライズで用意していたプレゼントを渡した。

とし子さんの驚く顔を期待して待っていると、実は知っていたのよ、がはは、と逆にサプライズで誕生日プレゼントを頂いてしまった。

わたしは、カリール・ジブラン『預言者』とおまけで細々したものを、とし子さんからは『I’M SPECIAL』と書かれたTシャツを貰った。

「原稿も欲しいなあ、がはは」

「はい。それも、もちろん」

「そういえば、締め切りを決めてなかったね。今、決めちゃおう」

すぐに締め切り日は決まった——10月31日だ。この作品で恩を返す、とわたしは意気込んだけど、精神病院を舞台にした小説は仕上げられなかった。がっかりされたくない一心で、急遽残りの3日間で短編を書いた。

しかしその日を最後に、とし子さんはしばらくお休みすることになっていたらしく、締め切り日は延びて、わたしはのんびり過ごすようになった。ようやく会えたのは、翌年2月だった。わたしはアルバイトを早退し、とし子さんの自宅に向かった。

とし子さんはベッドの上で帰らぬ人となっていた。

 

「書き直し!」

と、とし子さんは頻繁に夢に現れ、原稿に赤ペンを入れた。わたしは悲鳴をあげたけど、実力が足りないことくらい重々承知していた。

わたしは、なんだかお墓に行くのをためらい、これが完成したら会いに行きます、と懲りずに新たな誓いを立ててしまった。