すると、彼はムッとして、彼女が無痛分娩に反対する根拠が科学的ではないと断言したのである。彼が説明するには、きちんとした麻酔医がいればアメリカでも日本でも無痛分娩が特に妊産婦死亡率を高めるわけではないという。

たしかに、無痛分娩の麻酔による感染や頭痛などの後遺症はなくもないが、ほとんどの場合は数週間で治癒し、彼自身がこれまで1000件以上の無痛分娩を担当したなかで、死亡や重症にいたった産婦はひとりもいない、とのこと。

そして、彼は私にこう言ったのである。

「19世紀半ばに抜歯に初めて麻酔が使われるようになって以来、歯を治療するのに我々は麻酔を使っているけれど、このことについては誰も疑問視しないよね? なのに、お産に関しては麻酔の使用が疑問視される。これは性差別だと思わない?

アメリカでは7割の女性が、フランスでは8割の女性が無痛分娩を選び、女性の選択に反対する医師などいないよ」

ちなみに、一般社団法人 日本産科麻酔学会のHPによると、2016年における日本の硬膜外無痛分娩率は6.1%だ(硬膜外無痛分娩は多くの国で無痛分娩の第一選択とされる方法)。

結局、私は計画無痛分娩を選び、陣痛や分娩にも痛みを全く感じず、子供が生まれた瞬間は「あっけなかった」というのが実感だ。その後、赤ちゃんに異常が見つかり(無痛分娩とは関係ない)、手術を受ける大学病院と産院を授乳のために行ったり来たりする日々が続いて精神的にキツかったが、無痛分娩だったので産後の肉体的回復が早かったのが不幸中の幸いだった。もし自然分娩で肉体的にも疲弊していたら、赤ちゃんの心配とともに相当参っていたと思う(赤ちゃんの手術は無事成功し、今では健やかなティーンに育っているのでご安心ください)。