伊勢丹販売を成功させたもうひとつの理由

母の貢献は、さらにもうひとつ。
律枝さんは伊勢丹にアプローチするより以前に、静岡市内の新聞社やテレビ局の電話番号を一つずつ104番で調べてはファックス番号を聞き出し、会社設立のプレスリリースを流した。

「静岡出身の女性が、アフリカ発のバッグブランドを設立」

弱冠30歳の元銀行員女性が単身アフリカへ渡り、生きづらさを感じるウガンダ女性の雇用創出を目指すソーシャルビジネスをスタートさせた。そんな「ストーリー」を持つ仲本さん母娘はテレビ局の密着取材を受け、二人が奮闘する様子が夕方のローカル番組で放送された。色鮮やかなバッグたちも画面に映された。

伊勢丹でのデビュー2日前のことだ。しかも、その番組が終わる間際にレポーターが伊勢丹で販売される旨を告知してくれた。

当日、大勢の客が開店前から伊勢丹の前に並んでいた。

結果的に、母がやってのけた老舗伊勢丹への「アポなし突撃営業」は奏功した。相棒の千津さんは感謝してやまない。

「本当に母のお陰。母を(事業に)誘ってよかったと思いました。母は普通の専業主婦だけど、コミュニケーション力が高い。民生員の仕事や、PTAなど地域でさまざまな人と交わりながら、しっかり役割を果たしているのをずっと見てきました。それに、タスクスキルがすごく高い。前広にきちんと計画を立てて、粛々とこなしていきます。私にはないものを持っている」

何かトラブルがあった際に顧客に手描きの手紙を送るなど、アナログでぬくもりのあるコミュニケーションを取り入れたのは、律枝さんのアイデアだ。

「私にとってリッチーは、第二の人生だと思う。その機会を与えてくれた娘には、感謝しかないです。私の子育てを一番上で長女として支え続けてもくれた。その恩返しだと思って一緒に頑張りたい」

商品にも、家族にも、ストーリーがある。その温かな物語にファンは引き付けられるのかもしれない。

馴れ合いではない。しかし互いへの心からの信頼で結びついている。親と子として長い時間をかけて信頼関係を積み重ねているからこそ、ビジネスの現場でも確固たる関係が築けているのだろう 撮影/島沢優子