律枝さんが伊勢丹に直談判

その直後のある週末。単身赴任から戻っていた夫・正さんと買い物に出た律枝さんは、伊勢丹静岡店の前を通りかかった。
店の玄関前にはポップアップショップが開かれ、バッグや小物が売られていた。
「8月半ばでした。風がひゅーっと流れ込んで、気持ちのいい場所でした。ああ、こんなところでうちのかわいいバッグが飾られたら、どんなにいいかしら。そう思ったんです」

律枝さんは何かに引き寄せられるように、そのショップに近づき「どうやったら、ここでお店を開けるのかしら?」とまずは店員に尋ねた。店員から「伊勢丹のバイヤーさんにお願いしてから、ですね」と聞くやいなや、インフォメーションセンターに一直線。
背後から追いかけてきた夫に「ダメだよ。そういうのはアポイントを取ってからだよ」と止められたが、「聞いてくるだけよ」と振り切って、センターの窓口にいた女性に「どうやったらここでできるの?」とまたも尋ねた。

女性は親切に応対してくれた。
「1週間ごとにお店は変わるんです。バイヤーさんを通じてお話なさったらどうでしょう?ちなみに、どんなものですか?」
律枝さんは、その時持っていたバッグを見せながら「アフリカの女性たちが作っている商品なんです」と弾んだ声で説明した。

デビュー戦が「完売以上」

女性が問い合わせると、たまたまレディースバッグの担当バイヤーが店内にいて、すぐに会ってくれるという。名刺交換をし、バッグを差し出すと、今度はバイヤーが声を弾ませた。
「実は本流だった革のバッグが売れなくなってきて、ちょうどこんな素材のものを探していたんです」
話はとんとん拍子に進み、試験的にバッグ売り場に1週間だけ置いてもらえることになった。律枝さんが最初にイメージした風の通る玄関前ではなかったが、販売デビューが伊勢丹という名門百貨店の婦人用バッグ売り場である。

「もう、とにかくバッグを置いてほしくて必死でしたね。本当にありがたいねと娘と喜びました。置いてもらえるだけでも嬉しかったです。日本で誰も知らないうちのバッグが売れるなんて夢にも思いませんでした」

お店は色鮮やかなプリントで色に溢れている。律枝さんが自らバッグを持ち歩いていたからこそ、チャンスを生かして見せることができた 撮影/

伊勢丹側も同じ感覚だっただろう。在庫として店に持ってくる商品は「20点か30点くらいでいいです」と前日までに連絡がきた。まずはバッグ売り場に、三つだけ並べられた。

ところが販売が開始されると、RICCI EVERYDAYのバッグは飛ぶように売れた。当日の正午前に伊勢丹の担当者から電話がきて「仲本さん、全部完売しちゃいました。どうしましょう?」
店頭に出せばすぐに売れてしまう。だが、百貨店は客に「完売です」とは言えないという。
「とにかく、少しずつでいいので出してもらえませんか?」

そこで、伊勢丹以外のセレクトショップに並べていた商品を、頭を下げてすべてかき集めた。ウガンダから送っていては間に合わない。日本に帰国する邦人にバッグを持ち帰ってもらった。終わってみれば、1週間の販売点数は60数点、70万円を売り上げた。デビュー戦を「完売」で飾ったのだ。商品が供給できればもっと売れたことだろう。