鍛冶職人・赤畠大徳さんにオーダーしたスプーン。右利き用と左利き用で僅かにカーブが異なる。この差が食べやすさとなり、ひいては食べ残しを減らすことに繋がる。

小麦ひとつにこれだけのエピソードを語ってくれた生江さん。自然体だが、言葉には熱があり、好奇心を持って社会と地球の問題に取り組んでいることが伝わってくる。話は尽きない。急ぎ足で続いて厨房へ。手にしたのは、凹凸が美しい鉄製のスプーンだった。

「これ、右利き用と左利き用があるんです」

わずかに異なるカーブの形。使えばはっきりと自分の利き手用のスプーンだと分かる。なぜなら、驚くほど使い心地がいいから。

「赤畠大徳さんという鍛冶職人さんに頼み込んで作ってもらったものです。昔、たしか益子のカフェだったと思うのですが、韓国のスッカラというスプーンを使って、それがとても使いやすくて驚いたことがあるんです。このスプーンはそのスッカラをイメージしてオリジナルで作ってもらったもの。左利き用も僕からお願いしました。掬いやすければ食べ残しが出づらいし、それが一番シンプルにフードロスを減らせるんです」

ベーカリーコーナー。対面式の接客で、スタッフと話しながらパンが選べる。

他にも、絵付けが未完成で売り物にはならない有田焼をカフェの料理用の皿として使ったり、解体される古民家の床材を運び込み、裁断しなおしてフローリングに再利用したり、有効活用されたさまざまな資源が、どこか懐かしい空気を生み出している。

「店を立ち上げるときにまず考えたのが、ここで働く人間のことでした。スタッフが背伸びすることなく自然体のまま働ける場なら、お客さんにもきっと温かみや懐かしさを感じてもらえる。

マインドは環境が育てるものだと思うので、この店では制服も白いエプロン一枚だけ。そのほかは私服で揃えてもらっています。それは、制服に身を包むと、時に別人格になってしまうことがあるから。パン屋のような日常の延長にある店は、スタッフも自然体のほうがいいし、自分本来の姿で働いてもらうための小さな工夫です」

スタッフの平均年齢は20代半ば。和気藹々と笑顔で働く姿が印象的だった。

生ごみ処理機を覗くと分解中のパンや野菜が。電気料金は1ヵ月2300円程。ランニングコストも大きくはかからない。

他にも、厨房に導入している生ごみ処理機、カフェで使っている生分解性の竹ストロー、売れ残ったパンで作るラスクやパンの切れ端を原料とするビール……etc.。ひとつの店で実践していることの多さに圧倒されるが、生江さんはすべて同時に始めたわけではないし、その必要もないと強調する。

琥珀色に輝くブレッドビア。生江さんがイギリスでシェフをしていた頃に、ライ麦パンを使ったビールの美味しさを知ったことがきっかけとなっている。

「サステナブルやSDGsという言葉を難しく捉えて動き出せない人もいるかもしれませんが、最初から完璧を目指す必要はない。この店の竹ストローも、店を始めてしばらくして採用したもの。満足がいかないこと、違和感のあることを、ひとつひとつ改善していけばいいし、レフェルヴェソンスでは10年越しで実現したプロジェクトもあるくらいです。

できていないことより、できていることに目を向けて、加点方式で取り組んでいく。そうして楽しむ気持ちが、よりよい世界をつくるダイナミズムになると思います」