結論、人は「条件」に恋しない

辛そうな百合を目の前にしてもなお、直彦の頭には留美が浮かぶ。

できることならば一刻も早く会いに行きたい。あんな風にドタキャンしてしまい店の予約はどうしただろう。断ったのか、別の誰かと行っているのか……気になって仕方がない。

さらには「このまま泊まるつもりか」と、百合の存在を鬱陶しくさえ感じる自分もいる。

――俺って自分勝手だな……。

ベッドで眠る百合を遠目に眺めながら、直彦は自分で自分が嫌になった。

彼女は世界中どこでも喜んで駐在についていくと言ってくれた。家事も料理も得意だからサポートさせてね、なんて嬉しそうに語ってくれた。そんな百合を可愛いと思ったから、好意を受け入れようとした。

けれどもこうして、彼女の介抱をしてみてよくわかった。

直彦は結局、百合のメリットしか見ていなかったのだ。都合よく「してもらう」ことしか考えておらず、自分が「してあげる」場面を想定していなかった。

相手のために「してあげたい」と思うことが愛だと、確かそんなフレーズの歌詞があった気がする。

だとすれば、直彦の百合に対する気持ちはやはり愛じゃないのだ。身勝手な話だが「してもらう」ことはありがたく受け取っても、「してあげる」ことを喜べない。今もただ義務感でここにいるだけだ。

『留美さんは、ありのままでいいんです!』

ふいに、表参道で留美に叫んだことを思い出した。

あの時の自分は、百合とデート中であることも忘れて無我夢中だった。うだるような暑さも気にせず必死で追いかけた。暗い顔をした留美が気がかりで。なんとかしてあげたくて。

……この気持ちこそ、愛なんじゃないだろうか?

ハッと我に返ったら、窓の外が白み始めていた。心身ともに疲れ切りソファで寝落ちしてしまっていたらしい。

「ナオさん、おはよう」

声をかけられ慌てて目を擦ると、すでに身支度を整えた百合が目の前に立っていた。

「ごめんね、勝手にシャワー使わせてもらっちゃった」

「ああ……それは全然いいんだけど……」

驚いた。いつから起きていたんだろう。化粧品など必要なものは持っていたのだろうか。

いろいろ疑問は浮かんだが、あえては聞かなかった。とにかく元気になったなら、役目を果たせたならそれで良い。

「ナオさんのおかげですっかり良くなった。本当にありがとうございました!」

身勝手な男心を知る由もなく百合は無邪気に頭を下げる。

そんな彼女に気まずい笑顔を向けながら、直彦は静かに決心を固めた。