32歳の婚活は、一分一秒も無駄にできない

――ファッションセンスと金銭感覚の違いは、仕方ないわ。

知之と別れた留美は、一人苦笑しながら六本木ヒルズをブラブラと歩いていた。

マッチングアプリを数ヶ月続けて学んだのは、いくらスペックで相手を選んでも、価値観や気の合うかどうかはまた別問題という事実だ。

そして、すべてが合わなくても「また会いたい」と思う相手もいるのだから、人の感情は本当に不思議だ。

留美はため息混じりに空を見上げながら、つい直彦の顔を思い浮かべてしまう。

しつこい台風のせいで、まだ天気の悪い日が続いている。

この台風と同じく留美がグズグズしている間に、きっと直彦はアプリで良い子を見つけたのだろう。あれだけ「オンライン」になっていたのだから、理想の恋人と出会っていても不思議はない。

徳光は「一点集中型で勝負するのも必要だ」と言っていたが、人の縁というのは、結局はタイミングだと思う。直彦と自分は、なかなかそれが合わない。きっとそういう相性なのだ。

しかし留美は、直彦のおかげで鬱々とした婚活を開き直ることができた。ならば、これからまた新しい人を探せばいいだけの話だ。

32歳の自分が本気で結婚に狙いを定めるなら、一分一秒も無駄にすべきではない。次に進むしかない。

――さて、次は誰と会おうかな……。

再びアプリを開こうとしたとき、スマホが震えた。

「留美さん!!!」

通話ボタンを押した途端耳に響いたのは、直彦のやたらと大きな声だった。同時に、留美の胸に温かいものがじんわりと広がる。

「昨日は本当にごめんなさい!あんな直前でキャンセルするなんて……その、どうしても行けない理由があってどうしようもなくて……って言い訳でしかないですね。とにかくすみません……」

こんなシチュエーション、普段ならば電話も無視するか、少なくとも嫌味の一つや二つ投げるだろう。

なのに口元が緩むのをどうしても抑えられない。

「あの……どうしても会って謝りたくて。もう一度リベンジさせてもらえませんか?忙しいのは思うんですが……会ってもらえるなら僕、何でもするので」

「何でも?」

留美は笑いを堪えながら、ワザと意地悪な声を出してみる。

「は、はい!僕にできることなら!!!」

スマホ越しに生真面目な直彦の顔が浮かび、留美は彼に分からないようにクスクス笑った。

ああ、なんて楽しいのだろう。直彦との会話は楽しい。留美は、やはりこの男が好きなのだ。

「じゃあ、ロマンチックなレストランでプロポーズでもしてみて」

気づくと留美は、自分でも驚くほど大胆なセリフを口にしていた。

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