新型コロナの影響で注目を集めている「マッチングアプリ」。スマホ一つで新たな出会いを探せるため、婚活の主流となりつつあります。
FRaU webでは、実際の取材に基づいた「アプリ婚活」のリアルを、共著作家の山本理沙さんと安本由佳さんによってノンフィクション小説としてお届け。アプリの「モテ技」テクニックも満載です。
主人公はコロナ禍で孤独を極め、本気でアプリを始めたアラサー男女。「結婚とは」「幸せとは」について見つめ直していく本連載もいよいよクライマックス! 果たして二人はベストパートナーにたどり着けるのでしょうか?
結婚に焦る武田留美(32歳)はマッチングアプリを始め、年下の商社マン・直彦と出会いつつ婚活に精を出すが、失敗が続く。しかし「ありのままでいい」という直彦の言葉に癒され、とうとう自分からデートに誘う。
デート直前の悲報
――あ、また雨降ってる。
雨音に気づき窓に目をやると、外は土砂降りになっていた。
どうやら台風が近づいているらしい。ここ数日は天気が不安定で、雨が降ったり止んだりを繰り返している。
――すぐ止んでくれますように。
留美はドレッサーに向き直り、ゆるく髪を巻く。今夜はいよいよ直彦とデートだ。鏡に向かいながら、つい顔が綻ぶ。
マッチングでのデートは、普段ならばもっと緊張感のあるものだ。留美は意外に臆病な面があるから、初対面の男と会うのはどこか気が引け、いっそドタキャンしてしまいたくなることもしょっちゅうだ。
けれど、相手が直彦なら……。
別に、もう何も気負う必要はない。いつものようにつまらない話をされる可能性もあるが、今はむしろあのリズムの悪い会話に参加したい気分だ。
初対面ではあれほど苛立たされたというのに、第一印象などあてにならない。
いや、でも。
あのヒョンビンそっくりの顔には、うっかり見惚れてしまったことも事実だ。
留美は一人微笑みながらスマホを手に取る。雨に濡れて巻き髪が台無しにならないよう、タクシーを呼んでおこう。
しかしその瞬間、予想外のメッセージに留美の笑顔は凍った。
『留美さん、すみません。緊急事態が起きて今夜は行けなくなってしまいました。本当にごめんなさい』