「私は一度も『自分の力で世界を大きく変えたい』なんて思ったことはないんです。自分の活動を通して誰かが喜んでくれたら嬉しいですが、どの活動もまずは『いかに自分がこれまで見たことのない世界に出会えるか、美しい瞬間を体験できるか』ということから始まりました。だから『社会起業家』という肩書きがしっくりこなかったのかもしれません」

「Lalitpur」のパッケージに使う飾り紐は人身売買被害者のシェルターで暮らす少女たちが手作りしている。

「Coffret Project」はネパールでNPOの支援を受ける女性たちからの「お化粧がしたい」という声から始まった。あるとき人身売買被害者の10代の女の子にお化粧を施した。それまで不安定な精神状態で言葉すら発することができなかった子が、鏡を見つめた後に「ありがとう」と言った。それが忘れられない。

「彼女が保護されてから初めて口を開いた瞬間でした。スタッフやほかの少女たちに囲まれて、『きれい!』と拍手をされている。

それはとても美しい瞬間で、私にとってそんな一瞬一瞬が人生を支えてくれるものになる。もしそれが誰かにとっても美しく、『生まれてきてよかった』と感じるような一瞬であったなら、それ以上に嬉しいことはありません」

酒本さんはそうした“美しい瞬間”をいくつも積み重ねて前に進んできた。どの活動でも多くの人と出会い、新しい視点をもらった。酒本さんにとってそれらはけっして一方的な「支援」ではなく、誰かと一緒にかけがえのない瞬間を「つくる」体験だった。