竹中平蔵氏、中国社会でひそかに「大人気」になっていた

日中で共鳴する新自由主義の行方(1)
梶谷 懐 プロフィール

中国改革派からのシンパシー

中国における竹中氏の高評価のキーパーソンといえるのが現在「財新メディア」グループの社長である胡舒立(こ・じょりつ)氏であろう。胡氏は、1998年に独立系の経済誌『財経』を創刊し、経済問題を主としながらも地方の汚職事件などにおける大胆な調査報道で「中国の真実」を描き出すメディアとして評価を高めていった。そして、2003年のSARS流行の際に政府の対応を批判する報道で国際的にも注目をあびた。

その後、『財経』誌への当局の規制が強まる中で2009年に同誌とは袂を分かち、「財新メディア」を創刊、同社が発行する『財新週刊』は中国経済や社会に関する鋭い分析で高い評価を得ている。

「財新週刊」の公式サイトより引用
 

特に2020年のコロナ禍の際には、昨年末に武漢市における新型肺炎の流行にいち早く警鐘を鳴らし、自らも新型肺炎で命を落とした李文亮医師の独占インタビューを掲載したほか、都市封鎖の状況及び経済的な影響に関する精力的な調査報道を行った。その一連の調査報道は東洋経済オンラインや日経ビジネスで翻訳されるなど、海外でも大きな注目を集めた(陸、2019)。

報道の自由が大きく制限された中国社会において、胡氏は、政府ににらまれてつぶされてしまうような事態を独特の「嗅覚」で慎重に避けながら、できるだけ「事実」に迫るような質の高い報道を行ってきた。中国社会ができるだけリベラルな方向に向かうよう、ソフトな形で世論の喚起を図る、いわば体制内にとどまりながら中国社会の改革を権力者の耳にも入る形で行いながら社会を変えようとするのが胡氏のスタンスだと言ってよい。

さて、胡氏は『財経』誌の編集主幹だった時から竹中氏、および彼が行おうとする経済改革について注目し、記事としてたびたび取り上げるだけでなく、二度にわたるロングインタビューを行っている。特に、メルクマールとなったのが『財経』2006年1月23日号の「日本の改革を解読する」という日本経済の特集記事である。

この特集は、竹中氏以外にも田中直毅氏、加藤寛氏といった経済評論家、および何人もの財界人に対してインタビューを実施し、さらに胡氏らによる詳細な解説が加えられるという、非常にボリュームのある特集であった。この際の竹中氏に対するインタビューは、胡氏の後日の記述によると、2005年の暮れに彼女が日本を訪問した際に、彼女のたっての希望で行われたものだという(胡、2010)。

小泉内閣の時期、首相の靖国神社参拝などの問題もあり、中国各地で大規模な反日デモが起きるなど、日中関係は険悪なムードが支配した。また、日本人の対中感情も大きく悪化した。しかしその一方で、小泉内閣が進める「構造改革路線」への中国の「改革派」メディアや経済学者の関心はかなり高かった。中でも改革の先導役としての竹中平蔵氏に注目が集まっていたことは、すでに述べた通りである。