米国屈指の「物言う株主」が株主至上主義から転向した理由

「インパクト投資」とは何か
水谷 衣里 プロフィール

アッベン氏が新しく立ち上げるインパクト投資ファンドの名前は、「インクルーシブ・キャピタル・パートナーズ」。インクルーシブとは日本語で「包摂」を意味する。SDGsの用語を借りれば「誰ひとり取り残さない」と表現できるだろう。

 

バリューアクトキャピタルといえば、マイクロソフト社やオリンパス株式会社へ取締役を派遣するなど、その行動がたびたびメディアでも取り上げられてきた。世界有数のヘッジファンドを率いてきた「物言う株主」は、インパクト投資ファンドを立ち上げ、気候変動や社会的不公正の解決に、市場の力を活かすことを掲げた。株主至上主義からより幅広いステークホルダーへの価値提供へ、そして社会課題解決を通じた利益創出へと舵を切った例だと言えるだろう。

2008年からカナダ銀行総裁を務め、2012年からはイングランド銀行総裁を務めていたマーク・カーニー氏も、インパクト投資ファンドの立ち上げへの参画を表明した一人だ。ファンドを設立するのは、カナダに本拠地をおく資産運用会社「ブルックフィールド・アセット・マネジメント」だ。不動産や再生可能エネルギー分野に投資してきた同社は、新たにインパクト投資への参画を決めた。

もっともカーニー氏は、国連で気候変動問題担当特使を務めるなど、環境分野にはもともと関わりを持ち続けてきた。しかし、2つの先進国の銀行総裁を務め、ボリス・ジョンソン英首相の顧問にも就任していたカーニー氏が、インパクト投資の世界に参画した事実は、同分野の将来性や盛り上がりを示す象徴的な一つのエピソードだと言えよう。

市場の力を社会課題の解決に活かす

インパクト投資が描くのは、株主至上主義の従来型の資本主義でも、古くからある慈善活動の延長線上の行動でもない。市場の力を活かして、社会課題を解決するチャレンジである。

2019年6月に開催されたG20大阪サミット。第3セッションの最後に安倍前首相は「日本は地球規模の課題解決に必要な資金確保のため、社会的インパクト投資や休眠預金を含む多様で革新的な資金調達の在り方を検討し、国際的議論の先頭に立つ」と宣言した。

コロナ禍の中で、経済の立て直しが叫ばれるいま、日本社会の構造変化は不可欠だろう。自律分散型の都市づくり、感染症対策も含むレジリエンスの向上、気候変動対策など、取り組むべき課題は枚挙に暇がない。社会課題解決はイノベーションの宝庫だと言われる。金融の力で、社会課題解決を後押しし、イノベーションを牽引する観点からも、インパクト投資への期待は日本社会でもますます高まっていくだろう。