アメリカが直面している「文化戦争による分断」の現在地

大統領選におけるトランプ派と宗教保守
藤本 龍児 プロフィール

こうしたことを述べたあと、「軍の投入」を示唆したのである。それも正確には「もし市や州が、住民の命や財産を守るために必要な行動をとらないのであれば」という条件つきであった。トランプ派は、以上のような文脈で一連の経緯を理解する。

しかし主流メディアは、演説における前後の言葉をなおざりにする。かくして「平和的なデモに軍を投入」といった主流メディアの報道は、トランプ派の目には、文脈を無視するか歪曲した「フェイクニュース」にうつることになるのである。

 

「Black Lives Matter」の理念とは?

しかし反トランプ派は、演説全体をふまえたとしても、トランプ大統領の言葉を口先だけのものだと言うだろう。文脈による理解というならば、演説以外の、たとえば抗議デモに催涙ガスやゴム弾を使った事実なども含めて理解しなければならない、ということである。

しかしトランプ派からすれば、それも視野の狭い文脈、あるいは恣意的な事実の取り上げ方でしかない。トランプ大統領が演説で挙げたような暴動や殺人が全米各地で起きているのも事実なのだから、と。

もし、抗議デモのほとんどは平和的で、暴動はその一部でしかない、と言うのであれば、「Black Lives Matter」の理念を疑わざるをえなくなる。ジョージ・フロイド氏の命が大切であることはもちろんだが、殺された黒人警官の命は大切ではないのか。いや、黒人のみならず、いずれの人種の命であれ大切ではないのか。

人種や党派をこえて共感された「Black Lives Matter」の理念は、「黒人の命だけが大切だ」ではなく「黒人の命も大切だ」という意味だろう。さらには、暴漢に襲われた女性の尊厳も、破壊された個人事業主の夢も大切であるにちがいない。

であるからには、たとえ命や尊厳や夢が、数や量で計れるものではないにせよ、少しでもそうした被害を減らすことが政治の役目ではないのか。だとすれば、平和的なデモは支持しつつも暴動には厳格に対処する、というのが大統領のとるべき姿勢ということになる。

トランプ大統領は、6月16日、警察の予算削減や解体をもとめる声は退けながらも、警察改革の大統領令に署名した。たしかに、大統領が乱暴なツイートをするのは困ったものだが、基本的にはその責務を果たしている。これが、おおよそのトランプ派の考え方だと言っていいだろう。

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