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遺産相続の「いがみ合い」はなぜ起こる?精神科医・名越康文がズバリ答える

「遺言がなくても大丈夫」の落とし穴

「死」は、残された人のためにある

「うちは家族仲がいいから、遺言なんて書かなくても大丈夫」と思っている人は多いようだ。しかし、それまで家族仲が良く、特別な資産家でもなく、逆にお金にも困っていない家族が、相続争いで仲違いするのはよくある話。なぜそうしたことが起こるのか。精神科医の名越康文氏に、『自分で書く「シンプル遺言」』の著者・竹内亮弁護士がインタビューした。

竹内:日本人は、遺言を作るのに抵抗を感じる人が多いようです。

名越:有限の人生を信じたくないのだと思います。有限の人生を自分から受け入れるという作業が、特に日本人は苦手なところがあります。

竹内:弁護士としては、それを乗り越えて遺言を書いたほうがいい、と伝えたいのですが。

名越:好むと好まざるとに関わらず、人は突然亡くなりますし、残された周りの人が亡くなった人に連絡を取ることはできません。そのとき、迷惑を被るのは残された側です。つまり、「死」は、残された人のためにあると考えられると思います。

そこまで想像力を働かせれば、日本人は他人に迷惑をかけたくないという意識が強いですから、遺言を作ることが大切と思えるのではないでしょうか。

名越康文氏

竹内:名越さんは、遺言についてはどうお考えですか?

名越:遺言は遺産を分与する目的で書くものですが、それだけではなく、その人の理想、哲学、宗教観といったものが乗っているように思えます。

竹内:遺産を受け取る子どもから見ても、財産の話を超えて、意味づけをしがちな気がします。

名越:子どもにとって親は最高の価値があり、愛情の源泉ですから、自分が兄弟姉妹の中で何番目に愛されていたのかという順位が気になります。遺言は、それを規定する動かしがたい要因になることがあります。すると、気づかないうちに、お金の量が愛情の量に換算されてしまう場合があるのです。

 

竹内:相続が争いになりやすいのは、財産の話がいつのまにか愛情の問題になっているからなのですね。

名越:親の財産自体をあてにしているという直接的な面もあるかもしれませんが、それだけではなく、どのくらい財産がもらえるかが、自分がどれくらい親に愛されてたかという証明になってしまうという面があるわけです。

そのため、資産が十分にあるお姉さんがなんでこんなにがめつくなるの? みたいなことが起こります。兄弟姉妹の場合は、愛情の問題が金銭の問題に転移するのです。

竹内亮弁護士