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人の選択を解明する「意思決定理論」って何?

ひとはなぜ、それを選ぶのか?

「神は存在する、それともしない」 そのどちらに賭けるか?

これはブレーズ・パスカル(1623-1662)が、著書『パンセ』の中に書いた「パスカルの賭け」と呼ばれる一節です。

神を信じれば、たとえその確率が1%だとしても、永遠の命という無限の価値が得られ、その期待値は無限大である。一方、神の存在しない世の喜びなど、高々有限の値であり、その期待値も高々有限である。

パスカルはこのように考えました。

実は、選択において期待値という考え方を導入したこの一節は、歴史上最初の意思決定理論による分析事例だと言われています。

人の選択、その背景にあるものを明らかにする「意思決定理論」とはなにか? ここに紹介していきます。

【写真】ブレーズ・パスカルの肖像ブレーズ・パスカル

わたしたちの人生は選択の連続です。進学先や就職先の選択、結婚相手の選択や保険の契約内容、最近では年金受給年齢をいつにするかなど、一生の間はもちろんのこと、一日の間だけを考えてみても、視聴するテレビ番組やお昼のお弁当はどれにしようかなど、数多くの選択に迫られます。

こうした選択に直面したとき、多くの人は決まったルールや基準に従って判断をしているものと思います。好きな俳優が出演しているからこのドラマを観ようとか、保険は前回と同じ内容で契約しようとか、中にはその日の運勢で予定を決めることもあるかもしれません。

実際、こうした選択場面においてすべてを慎重に考えていけばとても時間がかかります。昼食のメニューを選ぶのに、その都度、毎日の食事バランスを考えてカロリーを計算したりしていては疲れてしまうかもしれません。

そこで、それほど重要ではない選択については、あまり深く考えず、あらかじめ用意された選択肢(デフォルトのオプション)から選ぶというのは、限られた時間内での選択という観点からすれば、一定の合理性があるといえます。例えば、迷ったら日替わり定食を選ぶというのは、ある意味で合理的なオプションだと思います。

もちろん、昼食は毎日食べるものですから、多少好みと違っても大きな問題はありませんが、人生の中には間違ってはいけない重要な選択もあります。進路の選択や結婚相手、新築する家の設計などは、頻繁に行うことはできませんし、いつでも、誰にでも可能な選択ではありません。さらに、選択を失敗したときの影響はとても大きなものです。

失敗できない選択の前に

そこで、失敗しない選択をしたい、あるいは「正しい」選択をしなければならないとき、その手助けをしてくれるのが「意思決定理論」です。これは近年ブームになっている行動経済学と呼ばれる分野とも関係するもので、たんに意思決定理論といってもそこには広範な分野が含まれます。

【写真】選択の必要性に迫られた時選択の手助けをしてくれるのが「意思決定理論」 photo by gettyimages

現代的な意思決定理論の基礎は、ジョン・フォン・ノイマンとオスカー・モルゲンシュテルンの『ゲームの理論と経済行動』によって築かれました。そこでは、リスクのある状況での意思決定のモデルとして、期待効用理論というものが定式化されています。リスクというのは、可能な事象のうちのどれが実際に生じるのかは事前にはわかりませんが、それぞれの事象の発生確率はあらかじめわかっている状況のことです。

このたび上梓した『「意思決定」の科学 なぜ、それを選ぶのか』で紹介した意思決定理論の特徴は、「公理」と呼ばれる一連の望ましい選択のあり方(パターン)を規定するルールと、「効用関数」と呼ばれる、選択の結果の良し悪しを数値的に判断するための数学的な手法を用いていく点にあります。こうした公理や効用関数は選択肢に対する人の好みのあり方、つまり「選好」を表すものです。意思決定理論の研究では、人の選好を公理という形で一連のルールとして規定し、この公理と整合的な選択をする人は、その公理に規定された選好を数値的に表現する効用関数の値を最大にするような選択をすることになる(その逆も真である)、という理論を構築します。その代表的な理論がこの期待効用理論になります。