政治はなぜ「怒りと敵意」で動くようになったのか?

リベラル・デモクラシーの後にくるもの
吉田 徹 プロフィール

有権者が重視するのは、テロ・移民・教育

争点はどうだろうか。

トランプ大統領が当選した2016年のアメリカ大統領選では、有権者が重視した争点として経済がトップ(84%)だったほか、外交(75%)、社会保障(74%)と並んでテロリズム(80%)、移民(70%)、教育(66%)、マイノリティの処遇(63%)、中絶(45%)などが重視されている(ピューリサーチセンター調べ)。

同年、世界を揺るがしたイギリスのEU離脱選択でも、国民投票に際して離脱を支持した有権者が重視したのは離脱そのものの是非ではなく、欧州統合によってもたらされる多文化主義や社会的な自由主義、移民問題だった(アッシュクロフト卿調査)。

単に経済的な問題であれば、離脱派が多数になることはなかっただろう。しかし、人びとが重視する争点はもはや経済ではなく、共同体の範囲や、その構成のあり方についてだった。

共同体の範囲と、ここから規定される権力、争点の変化は、政治そのものの変化を意味する。その象徴がポピュリズム政治だ。

 

左右を問わず、ポピュリズムが伸長

先進各国でのポピュリズム政治の台頭は馴染みの風景となったが、その内実はより複雑だ。

前提となるのは、政党政治の分極化だ。

イタリアをみてみよう。2018年3月におこなわれた総選挙では、極右ポピュリスト政党の「同盟」と極左ポピュリスト政党の「五つ星運動」がともに伸張し、左右ポピュリストによる連立政権が生まれた。

対する民主党やフォルツァ・イタリアといった既存の保革政党は敗退を喫した。

2019年5月には、EUの諮問的機関である欧州議会の選挙がおこなわれたが、極右政党の統一会派ENLおよびELDDがあわせて27議席増を実現した。

しかし他方で、26議席増と同様に伸張したのは、各国の緑の党の統一会派であるGreensだった。

これに対して1979年以来、あわせて過半数を失ったことのなかった中道左派S&Dと中道右派EPPが初めて過半数を下回った。

ポピュリズムが伸長する欧州議会(photo by iStock)

極右ポピュリスト政党と極左ポピュリスト政党や緑の党は、政策的にはそれぞれ対極的だが、ある点で共通している。

それは、ともに旧来の共同体・権力・争点とは異なる組み合わせでもって、新しい政治をめざしていることだ。

極右は、戦後実現した平等で均質的な社会という、過去にあった共同体への復帰を掲げる。それゆえ、かつてであれば社民政党に投票した労働者層の支持を受ける。

反対に極左は、環境問題という、未来に向けて広がる争点を、国家ではなくグローバルな共同体によって実現しようと訴える。それゆえ、未来を担う若年層の支持を大きく集める。

ともに、今ここにはないアイデンティティに向かって、日々の生活や利害に直接には関係しない政治を展開しようとしている点で共通しているのだ。

支持政党による分断の深刻化

しかも、世代や地域によって、どのような政治を展開すべきなのか、同じ国家でもまったく異なった志向を持つ人びとが共存するようになっている。

アメリカ政治では、共和党、民主党支持者が互いを敵視する「トライバリゼーション(部族化)」が進んでおり、例えば異なる党派支持者を家族に迎えることを良しとしない有権者までもが増えている。

これは、20世紀を通じて共同体・権力・争点の三位一体によって作り上げられてきた
政治のコンテンツが空中分解していることを示している。

ヨーロッパでは、旧来の保革二大政党間の対立は退潮しつつある。

ドイツの社民党、フランスの社会党、オランダの労働党といった長い与党経験を持つヨーロッパの代表的な社民主義政党は、2010年代後半の国政選挙でそれぞれ壊滅的な敗退を経験している。

他方で、イギリスの保守党、フランスの保守ゴーリスト党、イタリアの「フォルツァ・イタリア」も、相前後して敗退の憂き目にあっている。

これは個々の政党が抱える問題ではなく、政治が作り上げてきた三位一体がずれはじめていることを意味している。