初心者でも出来る! 暗示で心を操るための「催眠術」入門

催眠は「かかる側」の能力である
漆原 正貴 プロフィール

では具体的にどのように催眠感受性を測定するのでしょうか。

いくつかの催眠暗示によって構成された文章を読み上げた後に、質問紙を用いて被験者自身にどの種類の暗示に反応したかを答えてもらう方法が一般的です。 被験者によってどの暗示に反応するかは様々であり、体の一部を動かせなくなる人もいれば、存在するはずのボールが見えなくなる人もいます。 

催眠感受性尺度の研究からは、一つ面白い事実がわかります。それは暗示の種類によって、体験できる被験者の割合が大きく異なるということです。

たとえば、「握った手が開かなくなる」という暗示は2~3人に1人、「水の味が甘くなる」といった暗示は4人に1人、「幻覚が見える」「自分の名前を忘れる」などになると、10人に1人いるかいないかという割合になっていきます。

この割合を理解することは、催眠を行わない人にも大きな示唆を与えてくれます。もちろん日常生活の中で、例えば「味が変わる」催眠を体験したり目にしたりする機会はほぼないでしょう。ですがこの事実を知っていると、食品や飲料のCMなどを見たときに「これは催眠のスクリプト(セリフ)に近いな」「であれば、本当にこれで『味が変わる』人も一定の割合でいるのだろうな」という考えが浮かんできます。

催眠というレンズを通して見渡せば、近しい現象は日々の至るところに散見されるのです。

催眠を習得する道筋

催眠は「かかる側」の能力であると考えることで、催眠を習得する際の心理的ハードルも下がります

「催眠感受性尺度」の実験では、実験を行う人がその場でスクリプトを読み上げることもありますし、事前に収録した音声を流して行うこともあります。しかも「催眠感受性尺度」の中には、同時に多数の被験者に対して実施できるように作られたものもあります。

「事前に録音した音声を流す」「複数人を対象として行う」ということから分かる通り、このテストにおいては、被験者とのコミュニケーションが一切含まれていません。毎回同じセリフを同じトーンやペースで伝えることで、被験者を催眠状態に導くことができるのです。極論、被験者のことを何も観察せずに、ただセリフを読み上げるだけでも、催眠に反応する人は出てきます。

とはいえ、催眠には危険も伴います。正しい知識を身につけることは、被験者の安全を考える上でも、成功率を高める上でも、やはり欠かすことができません。それにまた、催眠を行う際に必要となってくる言葉や振る舞いの技法は、それ自体面白く、日常にも大いに役立てることができます

ラポール(信頼関係)をどのように構築するか。いかにして現実離れした暗示を無理なく飲み込んでもらうか。相手を否定せずに、望む提案を受け入れてもらうにはどのようにしたらいいのか。そのようなノウハウが、催眠には詰まっています。

催眠は何でもできるわけではありませんし、また全ての人が体験できるわけでもありません。それでも、決して万能ではない催眠の正しい射程を理解することは、きっと価値のあることではないかと思います。