初心者でも出来る! 暗示で心を操るための「催眠術」入門

催眠は「かかる側」の能力である
漆原 正貴 プロフィール

なぜ「催眠術師」は怪しいのか

催眠では、「怪しい」ことが有利に働きます。正確に言えば、「すごそう」「不思議な力を持っていそう」なことは、催眠を成功させる上で役に立つファクターです。
催眠には「威光暗示」という概念があります。これは被験者に催眠を行う上で、催眠をかける側が威光を持っているように見えると、実際に暗示の効果が高まるという考え方です。

 

この威光暗示の効果を得るために、催眠術師は、怪しいオーラをまとうようになっていく。これは催眠の黎明期から起こっていることであり、かつて催眠が「かける側」の持つ能力とされていたことと、深く関係しています。

催眠の始まりは、1775年、ドイツ人の医師フランツ・アントン・メスメルにより提唱された「動物磁気」です。

フランツ・アントン・メスメル(photo by Wellcome Collection)

メスメルは、人体が何らか磁気のような性質を備えており、このバランスが崩れることで、病気が起こると考えていました。そんな中、 彼は磁気を帯びた金属を人間にかざすことで治療効果があることを見出し、後に自身の手をかざすだけでも同様の効果があることを発見しました。

メスメルは人間の身体に宿る“磁気のような特質”を動物磁気と命名し、治療法を研究していきました。この手法は彼の名からとって「メスメリズム」と周囲から呼ばれるようになります。

メスメルの手法はそこから、厚いカーテンを用いて暗闇を作ったり、長いマントを羽織って演劇的に振る舞うなど、黒魔術的な雰囲気に近づいていきました。

このような「普通ではない力を持っていそう」で「オーラがあるように見える」振る舞いは、実際に威光暗示の効果を高め、被験者の催眠現象を起こりやすくします。

メスメル以来、18~19世紀の催眠の歴史を辿ると、このような権威主義的なアプローチが多く見られます。経験則として威光暗示のコンセプトにたどり着いていたのでしょう。

しかし、こうした「かける側」に能力があるという考え方は徐々に途絶えていき、20世紀に入ると、むしろ「かかる側」の能力ではないかと考えられるようになってきました。

催眠の能力は「かかる側」にある

20世紀に入ると、催眠は再び心理学や医学の世界で、学術的に研究されるようになっていきます。その中で、催眠の本質は「かける側」にあるのではなく、「かかる側」に備わっているという考え方が主流になっていきました。催眠理論研究の第一人者であるアーネスト・R・ヒルガードは「すべての催眠は自己催眠である」と考えを示し、「催眠術師による催眠」とは、単に自己催眠を引き出しているだけとまで述べています。

このような「かかる側」に能力があるという考え方に基づいて、人々の催眠へのかかりやすさを調べる実験が数多く行われてきました。催眠のかかりやすさは、専門用語で「催眠感受性」「被暗示性」と呼ばれるもので測られます。そしてこれを測定するために用いられるのが、「催眠感受性尺度(被暗示性尺度)」と呼ばれるものです。