「あやしい臨床試験」と「後出しじゃんけん」で作られる薬の効果

医学はこうして統計学をハッキングした
大脇 幸志郎 プロフィール

後出しジャンケンとしての「速やかなウイルス減少」

さて、ゾフルーザに期待を寄せる言説のうちで、なぜか判で押したように繰り返し強調されたのが、「ウイルス量が早く減る」という点だ。まさに製造販売元のサイトに「1回経口投与で速やかなウイルス減少」というキャッチコピーが載っている。

これを見た人の多くは「早く治りそうだ」と思うだろうし、実際の効果はタミフルと同じだと知っている人でさえ、「他人にうつす期間が短くなる」と解釈したようだ。

このキャッチコピーは、ゾフルーザとタミフルを比較した臨床試験で、ゾフルーザを飲んだ翌日・翌々日に検出されたウイルス量が、タミフルを飲んだ人よりも少なかったという結果に基づいている。

しかし、そもそもこの試験はウイルス量を見るための試験ではない。

なんとなく試験をやり、判定は結果が出てから場当たり的にするのでは、判定する人の予断によって結果がゆがめられてしまう。だから試験結果を判定する基準は試験を始める前に決めておく。これをプライマリ・エンドポイントと言う。

ゾフルーザの試験のプライマリ・エンドポイントは「症状が軽くなるまでの時間」と決められていた。ほかに37項目の参考値(セカンダリ・エンドポイント)のひとつとしてウイルス量も見ることになっていた。そして、症状が軽くなるまでの時間はゾフルーザで53.5時間、タミフルで53.8時間であり、統計的に差があるとは言えなかった(なおこの試験では、解熱薬のアセトアミノフェンで症状緩和するまでの時間は試されていない。試せば間違いなくアセトアミノフェンが勝つと思うが)

 

この試験の結果を要約するなら、「タミフルと同程度の時間で症状緩和」となるはずだ。しかし、例のキャッチコピーは、主要な結果には触れないで、枝葉のほうだけを強調している。37項目も参考値を設定したのだからどれかひとつくらい有望そうな結果が出ても不思議はないのだが、果たせるかな、いい結果が出たところだけをアピールしているわけだ。後出しジャンケンだ。

後出しジャンケンは悪なのか

ゾフルーザの宣伝文句は、都合のいいところだけを強調して、肝心なことを伝えていない。 しかし、常識的に言って、広告とはそういうものだ。だから読者がもし販売や営業に関わっている人なら、「それくらい当たり前ではないか」と思ったかもしれない。

しかし、「たくさん測って、いいものだけ報告する」というやりかたが統計学にとって問題となるのは、偶然の差を誤って効果と見てしまう可能性を大きくするからだ。

サイコロを3回振って3回とも6が出る確率は非常に低い。しかし、3回のセットを1000回繰り返せば、1回くらい「6の3連続」が出る確率はかなり高くなる。その1回だけを報告して、残りの999回は隠しておけば、「偶然としてはまれなので原因がありそうだ」という理屈に持っていける。

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つまり、後出しジャンケンを野放しにしておくと、ぜんぜん効かない薬であっても、何らかの望ましい変化を起こしたという広告が「エビデンスに基づいて」可能になってしまう。

この問題は統計学では多重比較の問題として古くから知られ、技術的な対応もさまざまに考案され、規制当局が体系化する試みもある。しかし、後出しジャンケンの問題として抽象度を上げてとらえると、しだいに技術的には抑えきれない局面が見えてくる。