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「あやしい臨床試験」と「後出しじゃんけん」で作られる薬の効果

医学はこうして統計学をハッキングした

現代医学において統計は非常に重要とされる一方、濫用されてもいる。この記事は全3回のシリーズでその状況の一端を取り上げる。

前回は、医学における統計に対する誤った期待があること、その例として、試験は無効を証明するためにこそあること、厳格な試験は効果の小さい治療のためにこそあることを挙げた。

前置きがずいぶん長くなったが、ここからようやく統計のハッキングの話ができる。身近な例を取り上げよう。

ゾフルーザとはなんだったのか

2018年末から2019年初のインフルエンザシーズンに話題になった、ゾフルーザ®(一般名バロキサビルマルボシキル)という薬を覚えているだろうか。1回飲めば治療終了という便利さもあって一躍人気になったのだが、ウイルスに耐性を作りやすいという弱点があった。

なのになぜか人気爆発して多くの人に使われた結果、調査によってはタミフル®(一般名オセルタミビル)など既存の薬よりも耐性株数の割合が大きいと報告されるほどになった。そして2019/2020シーズンの売上は前年から98.4%減となった

かつてシンメトレル®(一般名アマンタジン)というインフルエンザの薬があったのだが、耐性ウイルスが広まった結果、いまでは使われなくなった。ゾフルーザも同じ道をたどるのだろうし、2018/2019シーズンは史上一度だけゾフルーザが使われた愚行の冬として記憶されるだろう。

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では、ゾフルーザはなぜ、耐性化という弱点にもかかわらず、あんなに人気になったのだろうか?

たしかに1回飲めば終わるのは便利だ。また、単に「新しいものはいいものだ」という漠然とした期待もあったろう。加えて見逃せないのが、ゾフルーザがテレビで繰り返し取り上げられ、あたかも既存の薬よりもよく効くかのような空気が醸成されていたことだ。

インフル新治療薬ゾフルーザは1回のむだけ(2018年11月8日)
インフルエンザの季節到来! 猛威と戦う「塩野義製薬」:カンブリア宮殿(2019年1月24日)
猛威インフルエンザに、1回飲むだけの新薬登場:読むカンブリア宮殿(2019年2月3日)

これがいわゆるステマに当たるかどうかはこの記事では追求しない。製薬企業の不正なマーケティングについても踏み込まない。この記事が目指すのは、製薬企業の悪を暴くことではなく、あくまで医学統計のうちにある技術的な困難を周知することだ。