物理学者が本気で解説!クリストファー・ノーランと「時間」の科学

読んで『テネット』の衝撃に備えよう
山崎 詩郎 プロフィール

ガルガンチュアの超重力は、消せる

「重力は時間を遅らせる」のはわかったけれど、そんなに強い重力ならガルガンチュアの超重力のせいで、ミラーの惑星では生活できない(誤解3)のではと聞かれます。

ここで注意が必要なのは、重力があることと、重力を体感することは別だということです。地球のおかげで重力があり、我々は重力を体感しています。しかし、なぜ重力を体感できるのかと聞くと、答えに困る方も多いと思います。

答えは、地面に立ち重力に逆らっているからです。もし地面がなくなったら重力も体感できなくなります。

バンジージャンプをやったことがない人でも、遊園地のジェットコースターや高層ビルのエレベーターが急降下したときに、体がフワッと浮かぶ“無重力”体験をしたことがある人は多いでしょう。このように、重力は存在していても落下すると体感できなくなるのです。アインシュタインの言葉を借りれば「重力は消せる」のです。

宇宙ステーションは地球の重力を受けていますが、地球を周回しながら自由に落下し続けているため無重力状態になっています。これと同じく、ミラーの惑星もガルガンチュアの超重力を受けていますが、ガルガンチュアを周回しながら自由に落下し続けているため無重力状態になっているのです。

宇宙ステーションは地球の重力を受けているが、一緒に落下している人からすれば「無重力状態」となっている photo by nasa

そのため、「ミラーの惑星でもガルガンチュアの重力を体感せず生活できる」ことになります。「重力が時間を遅らせる」と繰り返してきましたが、少し正確に言い直しましょう。地面に踏ん張って「重力を体感すると時間が遅れる」わけではありません。ただそこにいて「重力があると時間が遅れる」のです。 

テネットとの関係は?

最後に、インターステラーと『TENET テネット』の関係を考察してみましょう。

『TENET テネット』の予告編では「時間の逆行」が登場しました。一方で、インターステラーではブラックホールの重力により時間が遅れましたが、「時間の逆行」を引き起こすことは決してありませんでした。ミラーの惑星でブラントも「時間は伸びたり縮んだりするけど、過去には戻れない」と明言しています。

だとすると、インターステラーのブラックホールを超えた新しい仕掛けが『TENET テネット』に用意されていてもおかしくありません。それが、主人公の技なのか超能力なのか、はたまた組織の技術なのか宇宙人の仕業なのかは全くわかりません。

まもなく日本公開される『TENET テネット』。『インターステラー』の時のように、ファンの皆さんと話し合える時を心から楽しみにしています。

ブラックホールは宇宙最強のコマだった?
本記事の著者・山崎詩郎さんによる
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