物理学者が本気で解説!クリストファー・ノーランと「時間」の科学

読んで『テネット』の衝撃に備えよう
山崎 詩郎 プロフィール

氷河のように時の止まった、高さ2000mの津波

第2の地球を夢見て着陸したミラーの惑星でしたが、彼らを出迎えたのは先発隊としてこの惑星にたどり着いたミラー博士の宇宙船のものと思われるバラバラになった機体のごく一部でした。なんと、ミラーの惑星では高さ2000mの超巨大津波が1時間に一回襲いかかり、来訪者をことごとく破壊していたのです……!

よく、「これぐらい着陸する前に調べておけよ(笑)」というご指摘を受けます。しかし、クーパーの肩を持つとすれば、これは避けがたいトラブルだったのです。

「ミラーの惑星の1時間は、地球の7年」を思い出しましょう。ということは、1時間に一回襲いかかる超巨大津波は、地球から見ると7年間かけてまるで氷河のようにゆっくり動いていたということです。外から見て誰も気が付かなかったとしてもおかしくありません。

ミラーの惑星で時間が5万倍ゆっくり進むというと、かなり多くの人がある誤解を抱きます。それは、時間がゆっくり進む場所にいると、全てがスローモーションに見える(誤解2)というものです。

しかし、人間の感覚や思考も、突き詰めれば脳の電気信号の集まりであり、物理現象のひとつだと考えられています。時間がゆっくり進む場所では、人間の感覚や思考も例外ではなく、まったく同じだけゆっくり進みます。

ゆっくり進む人がゆっくり進む世界を見るので、普通の速さで進むように見えるのです。そういうわけで、正しくは「時間がゆっくり進む場所にいても、スローモーションには見えない」になります。実際に、クーパーらはミラーの惑星でいつも通りに過ごしていました。

時間がゆっくり進んでもスローモーションのように見えるわけではない photo by gettyimages

昔ばなしのような現象は本当に起こります

ミラーの惑星で約3時間も足止めされたクーパーらは、23年もの月日を無駄にします。そこで目にしたのは、自分と同じ年齢に成長してしまった愛娘マーフからのビデオレターでした。

さらに、クライマックスでは超巨大ブラックホールの事象の地平面近くを通過しますが、さらに強い重力だったため、51年もの月日があっという間に過ぎ去ってしまいました。そして、寿命を迎えつつある娘のマーフに再会します。

浦島太郎のような話ですが、これはおとぎ話ではなく、物理学的に実際に起こる現象なのです。日本ではそのまま「ウラシマ効果」と呼んでいます。