物理学者が本気で解説!クリストファー・ノーランと「時間」の科学

読んで『テネット』の衝撃に備えよう
山崎 詩郎 プロフィール

ポイントは「重力は時間を遅らせる」の一つだけ

『インターステラー』のストーリーを大雑把に復習すると、地球が滅亡する前に第2の地球を探せ、という感じです。とはいっても我らが太陽系にはあまり良い候補はありません。そこで、“彼ら”が用意してくれたワームホールで別の銀河系にワープすることになりました。

その先で待っていた第2の地球の最初の候補。それが「ミラーの惑星」です。ミラーの惑星は全球が海に覆われた地球も顔負けの海の惑星で、有力な候補に見えました。

ところが、非常に大きなリスクを抱えていました。なんと、ミラーの惑星が周回しているのは太陽のような恒星ではなく、太陽の10億倍も重たい超巨大ブラックホール「ガルガンチュア」だったのです。

映画の主人公クーパーは、『2001年宇宙の旅』のモノリスのような形をした優秀なAIロボットCASE(ケース)のアドバイスを無視して、荒々しい操縦でミラーの惑星に「軟」着陸します。そして叫びます。「ここでの1時間は、地球の7年だ! ゴー!ゴー!ゴー!ゴー!」。

いったいこれはどういうことなのでしょうか……?

これを理解するために覚えておくべき物理学の法則は、

「重力は時間を遅らせる」

という一文だけです。これだけで『インターステラー』で起こる時間のトリックはすべて説明できるのです。

物理学者でも誤解しがちなポイント

ミラーの惑星は超巨大ブラックホールであるガルガンチュアの目の前を周回しているので、とてつもなく強大な重力を受けています。そのためミラーの惑星の時間の進み方は地球に比べて約5万倍も遅れ、ミラーの惑星に1時間いるだけで地球では7年もたってしまうのです。

ミラーの惑星にクーパーと共に降り立ったブラントは「体が重い」といい、親切なCASEは「重力は地球の1.3倍です」と教えてくれます。しかし、このやり取りが多くの人にある誤解を植え付けてしまいました。それは、ミラーの惑星の時間が遅れる理由はミラーの惑星の重力が地球の1.3倍だから(誤解1)というものです。

特に、相対性理論のことを少し知っている方ほど騙されやすく、私の知り合いの物理学者も同じような誤解をしていました。しかし、この1.3倍の重力というのは、クーパーたちが気にしている時間の遅れとは一切関係ありません。わずか1.3倍の重力が時間に影響を与えるなら、地球の6分の1倍の重力のお月様に行ったら大変なことになってしまうでしょう。

人が直接体感できるような時間の遅れを考えるときは、ミラーの惑星も地球も月も、ずばり無重力と考えて大丈夫です。超巨大ブラックホール「ガルガンチュア」のような重力の強い天体のことだけを考えればよいのです。

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