テレビはいつから「オワコン」になったのか。『こち亀』に見る昭和〜平成のテレビ史

稲田 豊史 プロフィール

『こち亀』は、テレビの薄っぺらさ、いい加減さも鋭く指摘する。85年42号「コレクターの巻」(47巻)では、両津の友人の車コレクターのもとに『私のカーコレクション』という番組の取材クルーが訪れるが、両津はどうせまともな取材じゃないだろうと不信感満載。両津はコントよろしく「脳天気パア子」という架空の女性タレントに扮し、車のことなどまるでわからず「外車でもタイヤがちゃんと4個ついてますね。びっくりしちゃったァ」などとほざく様を悪意たっぷりに演じた。

ワイドショーと「マスコミ=悪」のイメージ

〔PHOTO〕iStock

ワイドショーの過剰報道やメディアスクラムが問題になったのも、80年代だ。86年18号「気分はスター!?の巻」(49巻)では、派出所の同僚である麗子の妹・優が雑誌のストリートスナップで一躍人気者になり、テレビにも出演。その際に両津を「好きな男性のタイプ」と発言してしまったことから、派出所にマスコミが連日押し寄せ、大騒動となる。優が発言した直後に取材陣が派出所に押し寄せる描写は臨場感満載で、マスコミの強引さ、失礼さ、ガラの悪さが十二分に現れていた。

なお『こち亀』は、アイドルが著書を自分で書いていない(ゴーストライターが書いている)ことを、83年35号「マナ板のゴキブリの巻」(36巻)や87年42号「文豪・両津勘吉先生の巻」(57巻)で身も蓋もなく断定している。前者に至っては、アイドルのファンクラブに入会した本田の前で、「地味でまじめなやつが芸能界に入るかよ! 目立ちたがりで自尊心が強いから芸能界でやっていけるんだろ」と言ってアイドル幻想をバッサリ切り捨て、ナイーブな本田を泣かせた。

 

少年時代に読んだ『こち亀』で、「マスコミ=悪」「芸能界=信用できない」のイメージを固めた団塊ジュニアやポスト団塊ジュニア男性は少なくない。その世代の一部は後に、「2ちゃんねる」等のネット掲示板で、マスコミ報道の“裏”や偽善、権力との癒着構造、芸能界のタブーなどを好んで話題にする、いわゆる「ネット民」のはしりとなる。現在まで連綿と続く彼らの「マスゴミ叩き」の原体験は、もしかすると『こち亀』にあるのかもしれない

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