8月28日に安倍晋三首相が突然の辞任を表明し、「ポスト安倍」をめぐる戦いが始まった。しかし投開票日は9月14日であるにもかかわらず、大勢は9月初頭の段階で決まっていた。細田派や麻生派など、主流5派が菅義偉官房長官への支持を明らかにしたからだ。その背後で暗躍していたのが二階俊博自民党幹事長だった。
8月28日の辞任会見前、安倍首相と二階幹事長は2人だけで会談を行った。おそらくそこで事前に首相から辞意が伝えられたのだろう。その瞬間、二階氏の頭の中で「ポスト安倍」候補者は「菅、石破、岸田」の3人に絞られたはずだ。
その後、同日の会見前に行われたテレビ番組の収録で、「健康状態が心配されている安倍首相が辞任した場合、後継の総裁はどのようにして選ぶのか」と尋ねられた二階氏は、このように答えている。
「緊急を要するなど状況によって党員がやむを得ないと考えるなら、緊急の措置を講じていく」
安倍首相が任期途中で辞めるとなれば、それは「緊急を要する状況」だと言える。まだ辞任が発表されていないにもかかわらず、この時点で党則を利用して「緊急事態につき、総裁選において通常の党員投票は行わず、両院議員総会での選挙という緊急措置を講じる」という流れを二階氏はお膳立てしていたのだ。
実はこれによって、石破茂元幹事長は安倍後継への道が事実上閉ざされることになったのだ。石破氏は「次の総裁選にも必ず出馬する」と目されており、「次の総理大臣にふさわしい人」アンケートでもつねに上位にランクインしている。総裁選での石破氏の強みは、地方からの支持だ。2年前の総裁選でも、党員からの投票結果では安倍首相をおびやかす勢いだった。
しかし国会議員が大半を占める両院議員総会で総裁を選ぶとなると、主流派から強い支持を受ける必要がある。つまり、安倍政権に批判的だった石破氏は、前述の二階氏の発言によって党員投票がなくなったことで、総理の芽は摘まれてしまったのである。