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2035年に「がん」、2040年には「糖尿病」が治癒可能になる?

人が病気で簡単に死ななくなる時代

2020年現在、医療は「完成期」、すなわち人間が病気で簡単に死ななくなる時代に突入しつつある――。最新の医療技術に詳しい医師・奥真也氏は、新刊『未来の医療年表 10年後の病気と健康のこと』(9月16日発売)で、医療の驚くべき進歩を予測しています。がんや糖尿病のような病気はどのように解決されるのでしょうか?

「病気で簡単に死なない時代」に

紀元前2600年頃、古代エジプトの神官・イムホテプが数百種類の病気の診断方法、治療方法をまとめた書を記してから約4600年。

そして紀元前420年頃に古代ギリシャのヒポクラテスが、医学を呪術や祈禱から切り離し、科学としての医療の基盤を築いてから約2500年――。

2020年現在、医療はついに完成期に入りつつあります。

そして、あと数年経てばその状況はさらに進み、「病気で簡単に死なない時代」が確実にやってくるでしょう。

永いあいだ人類にとって最大の難敵の一つであったがんにしても、「死なない病気」の一つに成り代わっていくことは間違いありません。

 

がんが人類にとって厄介きわまりないものであった根本的な理由は、この病気独特の
「多様性」にありました。

たとえば同じ大腸がんでも、病気の進行度合いや治療に対する反応は個々の患者さんによって全く違いますし、患者さんの数だけ異なるがんの様相があると言ってもいいほどです。

そのような病気に対しては、医療の常套手段である「類型化」は困難であり、医師たちは症例ごとに毎度頭を悩ませなければいけませんでした。

しかし1990年代以降、手術や放射線、抗がん剤など既存の治療法をうまく組み合わせることにより治せるがんが一気に増えたこと、そして2005年頃に画期的なジャンルの薬が開発されたことにより、臨床上でがんの持つ多様性は、それほど大きな障壁ではなくなってきました。

遺伝子解析技術の飛躍的発展

どうしてそのようなことが可能になったかというと、がんの本質は基本的に遺伝子の異常によって引き起こされる遺伝子疾患であり、2000年代に入ってから個々の人の遺伝子配列を解析する技術が飛躍的に高まったからです。

遺伝子配列の解析技術は飛躍的に向上した(photo by iStock)

この結果、遺伝子に直接アプローチする「分子標的薬」という治療薬とそれを中心に据えた治療法が開発され、確立しました。

2020年に流行拡大した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、規模としては1918年のスペイン風邪以来のものであったでしょう。

しかしこのウイルスの全塩基配列は、2020年の2月4日には早くも『Nature』誌に掲載されて明らかになっています。

中国の武漢で最初の患者さんが入院した2019年12月12日からわずか2ヵ月足らずのことであり、ウイルスの特徴が明らかになるまでの時間は、歴史上の他の感染症と比較して圧倒的に短期間でした。

このように遺伝子の解析技術は今日では目覚ましいレベルに達しており、がんの治療にも絶対的な恩恵をもたらしています。

たとえば将来的に乳がんを発症する人であればその人にどのような遺伝的な特徴があり、その人が実際にがんを発症したときにはどれくらいの大きさでどの程度の速さで病気が進行するか――こういったことが、患者さん一人ひとりの遺伝子を解析すれば確実に把握できるようになったのです。